第2話

 もしかしたら日記などというものを書こうと思ったのは今の出来事が書き記すに足る事だと思ったからかもしれない。

 しかし、単に気まぐれという事も考えられる。

 それは、私はあまり人間が論理的な生物だと思っていない。他人に関しても、自分に関してもだ。

 故に、いつこの書く手が止まるかもわからない。

 続けることは論理的な行動に思えてならない。

 同じ行動を続けることは過去には危険を伴ったはずだ。これは私の考えすぎだろうか。


 始まりは何かあったように思う。

 だが、彼はその何かを思い出せなかった。

 特に頭や体に痛みが伴う訳ではないが、不思議と思い出すことができなかった。

 まるで霧や雲のように掴みどころがなく、モザイクがかかったように鮮明でなかった。

 もしかしたら、本当にモザイク越しに原因となるものを見ていたのかもしれない。そうとすら思える程、モザイクの先に今の状況に関連する何かがあるように思え、心が奪われた。

 ふと、振り返ってみると、どうやら小川にかかった橋を渡っていたようだ。

 大きな音が追いかけてこないのは縄張りを出たからだろうか。

 それなら今は別の生物の縄張りに入ってしまったのかもしれない。

 友好的な生物ならいいが、また急に追いかけてくる事も考えられる。

 一通り思考を終えると彼はまだ完全とは言えない状態ながら歩み始めた。


 他に自分と同じような形をしたものは見当たらず、どこも茶色いものが高くそびえていた。

 周囲に気を散らしながら歩いていると、風とは違う不自然な物音が聞こえた。

 警戒するも、近づいてくる様子はない。

 向こうも警戒しているようだ。

「誰かそこにいるのか?」

 彼の言葉に、話しかけた先では再び不自然な物音がした。

「誰かいるのだろう? ここは一体どこなのだ?」

 大きな安堵の息が漏れ聞こえると木陰から女性が姿を現した。

 彼女は見るからに同族らしく、彼は気が立っていたこれまでから解放された気分だった。

「どちらからいらしたのですか? そもそもどうやってここに?」

「覚えていない。何も。さっきまで何かに追われていたが、何に追われていたのかもわからない」

 女性は少しの動揺を見せただけで、それ以上驚く様子は見せなかった。

 代わりに視線を泳がせて何かを考えている様子だった。

 男は彼女が口を開くのを待った。

 待っていると男の腹が鳴った。

「まずは、食事にしましょうか。ついてきてください」

 馬鹿にするわけではない女性の微笑に、男は一瞬固まったが目的を持って歩き出した彼女の後をついて行った。

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