記憶の海の向こう側
本条真司
第1話
本棚。が、立ち並ぶ黒い空間
真っ黒にも関わらず、彼には本が見えていた
(ここは…?俺は、一体…)
彼は
彼にはとてつもなく悲惨の過去がある。それは彼の心を苛み、記憶を消去してしまった
(これは…)
本の1つを手に取る
開いてみたものの、何も書かれていない
白紙を綴じただけの、メモ帳のような本
厚さは5センチほど。全ての本がそれほどの暑さで、サイズはA5程度だろうと予測をつける
(俺は、死んだのか…?ロクでもない人生だったが…。でも、記憶を取り戻せなかったのは残念だな)
本を棚に戻し、ふぅ…と一息つく
奥に進んでいくと、謎の広間に出た
中央には本を読む少女がおり、そこだけが明るくスポットライトか何かで照らされている
「…座れば?」
「あ、ああ…。ここはなんだ…?」
「ここは、ライブラリ。地球の記憶を本にして保管してる、図書館」
「なんで俺はここに…」
「わからない。…私はこの図書館の司書。記録を管理して、読み返す。そういう人」
「名前は?」
八城はようやく少女の眼の前に腰掛け、顔を見ることに成功した
黒縁の眼鏡をかけ、長い髪を結うこともなくおろしている
髪は雪のように白い。八城はそれを見て、久しぶりにキレイだと思っていた
「…ない。私を呼ぶ人はいないから。ここは、私以外の人が入ることはできないはず」
「そうなのか。じゃあ…アリスでどうだ」
「…好きに呼んで。貴方以外、呼ぶ人はいない」
この間にも少女――アリスは本から目を話すことはない
ひたすらに本を読んでいる
「少し案内してくれよ」
「別にいいけど、案内するようなものは殆どない。暇つぶしになるかどうかくらい」
「別にいいさ。どうせ、いつ抜け出せるかもわからん」
「…わかった。じゃあ、いこう」
アリスは眼鏡を外して、八城を見た
と同時に目を逸らし、慌てて椅子を降りて転んだ
「…おい、大丈夫かよ」
「だ、大丈夫」
「ほら、掴まれ」
「ありがと…」
八城はアリスに手を差し出した
アリスが掴まると同時に、引き上げて立たせる
「鈍くさいな」
「うるさい…」
読んでいた本を持って、アリスは先を歩く
八城はそれについていき、また本の山に入っていった
「このあたりは、地球創造の日。今から46億年位前のこと。この時代、地球はまだマグマの星だった」
「へぇ…。じゃあどうやって命が生まれたんだ?」
「地球創造から5億年くらいしたとき、海ができてる。そのあと、植物性の細菌が生まれて、以下略。あとは読んで」
「めんどくさがるなよ」
アリスはどこかの制服のようなセーラー服を着ている
ニーソックスを着用し、校則遵守の優等生に見える
とはいえ、八城の通っていた学校はニーソックスは禁止されていたため、本当に遵守なのかは甚だ疑問である
「…なに?」
「いや…その服はお前の趣味なのか?」
「…知らない。気づいたらこの空間で、この服を着てたから。やることだけは、頭に浮かんでたけど。それ以外は思い出せない」
「この本の中にあるんじゃないのか?お前の記憶」
「それは…あるけど、探すのは困難。だって、こんなにあるし…」
「それもそうか。俺の記憶も探したいし、手伝ってやるよ」
「…?記憶喪失なの?」
「ああ。ここに来る前に、イジメだかなんだかで記憶を失ってる。多分解離性障害ってやつだ。もしかしたら、解離したのは俺のほうで、俺として生きてるやつがいるかもな」
「そんなの話していいの?」
アリスが立ち止まり、振り返る
八城は飄々とした雰囲気で、言う
「今更気にするかよ。お前と俺しかいないなら、暇つぶしの話題は多いほうがいいだろ?」
「…そう。なら、いいけど」
八城はふと、鍵付きの本を手にとった
何に惹かれたのかはわからない。しかし、八城をよんでいる気がしたのだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます