僕の余命はたったの1000文字。

綴木しおり

あなたの余命はたったの1000文字

「あなたの余命はあと1000文字です」




この言葉を医者から聞いた瞬間、僕はその場から逃げ出した。


意味が分からない。


いきなり自分の余命があと1000文字だなんて言われて理解できるわけがない。


1000『文字』って何だ?


普通は『秒』とか『年』じゃないのか?


しかも1000文字って短すぎないか?


これではどうすることもできないじゃないか。


僕はまだ18歳で人生だってこれからじゃないか。


なのになぜこんなことになってしまったんだ。





いや、まずは一旦落ち着こう。



路上を歩きながら僕は病院から出る直前に医師が叫んでいた言葉を思い出した。


確か、『自分が考えていることも文字数に含まれる』と言っていた気がする。


ということはつまり、今この状態にも文字数は着実に減っているということだ。


駄目だ、何も考えてはいけない。


『無』になろう。
















これじゃ何もできないな。


『無』でいれば死期は引き延ばせるけど生きている心地がしない。




こうなってしまっては仕方がない。


どうせ死ぬんだから最後に何かして死のう。


おそらく僕は今の時点で300文字くらい消費してしまっているだろう。


あと700文字で何ができるだろうか。


愛している彼女に電話?


僕には彼女がいない。


好きなあの子に告白?


僕はその子の家も電話番号もメアドも知らない。




とりあえずお母さんに電話するか。


だが、ここで文字数を使うわけにはいかない。


お母さんが電話に出た。


その瞬間、


「お母さん今までありがとう!」


そう言って僕は電話を切った。


これでよし。



これからどうしようか…





そもそもなんでこんなことになったんだ?


僕は今まで普通に生きてきた。


持病も持っていないし、ここ最近なにか大きな怪我をしたわけでもない。


なのになぜ僕は今死にかけているんだ?



余命1000文字。


まるで小説のような字面だな。



いや、待てよ


1000『文字』という意味不明な死へのカウントダウン、考えていることまでカウントされる、そして彼女もいないし大した特徴もないと言う『短編小説』にありがちな僕のステータス。



もしかして、僕はなのか?



そんなはずはない。


僕は今まで自分の意思で生きてきた。


好きなものを食べて好きなことをして生きてきたんだ。


彼女がいないのもシンプルに僕がモテないだけ。


そうであるはず、そうでなければいけないんだ。



そう、だよな?


確信を持つことが出来ない。



だが、僕が小説の中の住人なのだとしたら、僕は作者を許さな…あ、終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の余命はたったの1000文字。 綴木しおり @kamihitoe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ