十一月 彰の文句
さあさあと降り注ぐ雨が地面を叩き、その飛沫が空気を冷やす。冷やされた空気は静かに確実に部屋に上がり込むと、あっという間に俺の手足を氷のように冷たくしてしまった。一度冷えてしまえば温まるのは難しく、そうなってくると心まで冷えてしまう。俺を温めるべき奴の所に行くことに迷いはなかった。
「【こんごう】」
「あー、後にしてくれ」
【こんごう】の執務室に入れば、【こんごう】は書類から目線を上げることなく真っ先に断った。まだ何も言っていないのに。
「寒い」
「そーだな」
俺が寒いと言っているのに、書類の方が大事なようだ。本当にこの男は気が利かない。
「寒い」
「うわあ!!彰、やめろ!!」
今度はこんごうの襟首に手を突っ込んでやった。温めないならば勝手に温まるまでだ。
「ほんとに何なんだ!要求はなんだ!?」
「寒い」
「寒いじゃ分からん。ちゃんと言え」
【DDG】とはここまで気が利かないものなのか。【DDH】なら最初の一言で毛布がでてくるのに。
「温めて」
「……あーもう分かった。こっち回って来い。【あきづき】すまんが、ヒーター持ってきてくれ」
【こんごう】の前に回れば、こんごうが俺を抱えるのようにして膝に座らせ【あきづき】に指示を出した。【あきづき】も面倒くさそうな顔をしながらも素直に指示に従い、席を立った。
「彰、ちゃんと言わなきゃ俺たちは分からないんだ。面倒なら【DDH】のとこに行けよ」
「……」
【こんごう】は子供に言い含めるように俺に話すが、俺にとってはどうでもいいことだったので返事はしなかった。すると【こんごう】はため息をついたが、それからは何も言わなかった。
麗らかな春は遠く、茹だる夏は薄れて、今年も雨が冬を連れてくる。
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