十一月六日1300 とうりゅうの進水

 汽笛の音が山の錨マークを震わせた、次の瞬間だった。船台を大きな鉄の鯨が滑りゆく音と共に、海水が自分の足先から胸のあたりまでを濡らした。そのあまりの冷たさに驚いて目を閉じた。

「ほら、ちゃんと見て」

優しい声がして、恐る恐る目を開けると、今までどこかぼんやりとしていた景色が急にはっきりと見えた。青い空に吸い込まれるように飛んでいく風船。大小様々な船が浮かぶ蒼い海。さっきまで自分が繋がれていたドックの紅白の幕。なにもかもが色鮮やかだ。

「おめでとう【とうりゅう】」

聞こえた小さな声が誰のものなのかは分からなかった。それでも自分が祝福されているのだということは十分に理解できた。



 ハレの日汽笛。その祝福が自分の中に響き渡ったように、自分に関わる全ての人が幸福でありますように。

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