十月九日 台風十九号(泊避) ゆげしま

 人生最後の晴れ舞台、観艦式が目前に迫った本日。どうにもこうにも台風の進路が悪い。担当者がテレビや気象データと睨み合っていたが、ついにその号令はでてしまった。

台風泊避たいふうはくひだ」

さて、問題は泊避することよりも台風が観艦式の当日に直撃することである。もし仮に進路が逸れて、観艦式が決行されることになったとしても、我々掃海艦艇は瀬戸内海に泊避する。全速力でも15knot《のっと》の足では、観艦式に出ることは不可能だ。

「……さては、観艦式でれない……いや、出るつもりがないっていうのが正しいか」

艦霊ふなだま】としては安全な上に楽で大変たすかるのだが、少し残念な気持ちもなくはない。


出港ラッパが鳴り響く。艇は岸壁を離れ母港のある瀬戸内科に進路を取る。さらば横浜。また来る日まで。


余談ではあるが、後日海上自衛隊が作成した『バーチャル観艦式』にも俺の姿はなかった。

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