六月十二日 2330 のとじまの霊抜き

 はっきり言おう。慢心していた。元【のとじま】こと能仁のりひとは、やんちゃが過ぎるすがしま型兄弟のしっかり者だ。故に霊抜きに関しても問題なくスムーズに行えると思っていた。

「【すがしま】邪魔だ」

「能仁を送っていく」

掃海艇の住む屋敷の前で【すがしま】が仁王立ちで俺に立ち塞がる。なお、本日の主役こと霊抜きをされる能仁は、すぐ後ろの玄関で何も言わずに座っている。挙げ句の果てに、もうどうにでもなれとでも思っているのだろうか、煙草を吸い始めた。

「俺が能仁をおんぶしていく!」

【すがしま】が再び主張する。【多用途支援艦たようとしえんかん】を差し置いて着いていこうとする【艦霊】なんて前代未聞ではないだろうか。

「菅仁、早くして。どっちでもいいから」

能仁が灰皿に煙草を押し付け、深い溜め息をつく。【すがしま】は折れないだろう、多分。

「……入り口までだぞ」

「よっしゃっ!!」

俺がそう言えば【すがしま】は力強くガッツポーズをし、すぐに能仁に背中を向けしゃがむ。能仁は素直に【すがしま】の背中におぶさった。


そこからは平和だった。霊抜たまぬきを行う屋敷までは短い距離だが、二人の間に会話はない。ただ同じ所を同じ顔で見ていた。

「【すがしま】ここまでだ」

霊抜きを行う屋敷の前で声をかけると、【すがしま】が名残惜しそうに能仁を降ろす。そのまま、俺が能仁を受け取る。【すがしま】は振り返り、能仁の額に自分の額を宛てた。

「……能仁、またな」

それは今までの【すがしま】からは想像もできないくらい優しい声だった。

「またな、菅仁すがひと

能仁が短く返すと、【すがしま】がゆっくりと離れる。そして、二人は同じ顔でニヤリと笑った。

「じゃあ、いくぞ」

能仁を抱えて屋敷に入る。【すがしま】は閉められていく戸を最後まで見つめていた。


 再会は海の底の都にて

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