六月十二日 1000 のとじまの除籍
先日梅雨入りしたばかりの空は自分の色より明るい灰色をしていた。雨は降りそうで、降らないなんとも絶妙な塩梅。去年の今頃もこんな天気だったとぼんやりと思いながら、自分の最期の舞台を見つめる。事故で掃海艇としての役割を果たすことができなくなり、修繕はしたがそのままの除籍。掃海艇としての【のとじま】の障害は幸せかと、問われれば首を横に振らざるを得ない。静かに下げられていく自衛艦旗。母港ではないここ呉で俺は役目を終える。まだまだ走れたという悔しさと、役に立てたかもしれないという無念が心の底で白波を立てる。ポツリと雨が手の甲を叩く。ああ、降りだしてしまったか。
「
いつの間にか横に立っていた【あいしま】が俺に声かけた。あらかじめ決められていた担当の部隊がローラーを使い丁寧に灰色で塗りつぶしていく。【あいしま】が少し俺の顔を覗き込む。柄にもなく心配してくれているらしい。その時、ふと浮かんだのは生まれてから今日までに出会った俺に関わった人たちの顔だった。愛されていた、否、愛されているのだ。そう思えば心の底が凪いでいく。
「無敗の【すがしま】を頼んだぞ」
「もちろん」
【あいしま】はニッと口角を上げる。頼もしい限りだ。
雨はもうやんでいた。
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