三月十六日1000 えたじまの就役
本日は晴天也。陸では桜が笑い、メジロが愛らしい小首を傾げる春。人に望まれて、人の手によって造られた君が長い航海を始めるに相応しい天気だ。君の仕事はあまり人目につかない。君が日陰の者であればそれはこの国が平和だという証左だ。無論、僕もそれを望んでいる。でも覚えておいて、君を愛する【座敷童】が確かにここにいるのだということを。
【ツルミ】に誘われ紅白の幕の向こうに行けば式典の準備はもうすっかり整っていて、あとは引き渡されるのを待つのみの俺の本体が居た。黒い制服の中には兄たちの姿もあった。うまく紛れているので違和感は全くないが、気配が【
「なんか寂しい」
俺が小さく言えば横に居る【ツルミ】は俺の肘を小突いた。静かにしろということらしい。目の前で三角形に畳まれた紅白の旗が艦長の手に渡る。紅白の旗を先頭に乗員がマーチに合わせて一糸乱れぬ動きで艦に乗り込んでいく。
「行ってきなさい」
【ツルミ】が俺の背中を押す。偉い人の後にくっついて艦に足を踏み入れる。今まで何度も歩いた甲板が昨日までとは打って変わり輝いて見えた。一歩踏み出すごとに熱い血が全身を巡る。進水した時とはまた違った高揚感で足元が少しふわふわとしている。
「もう一度生まれたみたいだ」
君が代の演奏に合わせて紅白の旗が艦尾にゆっくりゆっくりと上げられた。
岸壁に出港ラッパが鳴り響く。岸を離れる艦は長い航海に出る。短く長い生涯に幸多からんことを祈る。
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