おさんぽ
新吉
第1話
おさんぽ、犬と一緒の時もあればひとりで近所を徘徊することもある。長いときは一時間、短いときは15分。毎日行くわけじゃない。
雨の日でも抵抗があんまりないのは、雨でも楽しそうな犬のおかげ。あと最近買った骨の多い傘のおかげ。こどものころよく傘をバトンや剣にみたてて、アニメのまねをした。杖つきながら歩いては排水溝の隙間に入って折れてしまった。高いところから降りれば傘で飛べると思っていた。小さなパラシュートのように。くるくると回しながら歩く。雨に歌えば、雨じゃなくても歌うけど。
ひとりで歌いながら歩く変な女はここにいます。だけどいつかの歌のおねえさんも言ってた。変な人よけになるよって。人が通りかかればもちろんやめる。誰もいなければちょっと声も大きくなる。夜中でもないし。
杉だらけの林を抜けて、まだ花粉症じゃないから平気。昼間でも薄暗い道を抜ければ見晴らしがいい。春の訪れを感じる。今日は雨だけど。寒いけど。それでも草花咲きだして、名前あてクイズをしてくる。さて私は何て言う草でしょうか?あーここまででかかってるんだけどね。ごめんね。
おさんぽ以外にもたくさんひとりで楽しんでるけど、おさんぽを選んだのはちゃんと理由がある。ひとりカラオケもひとり居酒屋もソロキャンプはできないけど、ひとりで旅行したりする。あとは音痴だからソロで歌う機会なんかはない。
簡単にいうと子どもの頃からずっと続けているからだ。いい気晴らしになる。おさんぽ、遠くまで行かない。家の近所。引っ越する前のアパートの時からしてた。まだ小さかったから家の前の階段までとか、すぐそばの公園にお姉ちゃんや弟より先に行って待ってるくらいだったけど。
小さい頃から、一瞬のひとときのひとりになる時間がやけに好きだった。実際一人暮らしをしたときとはまた違う、抜け出してる感。学生の頃はもっぱら夕日を見に行っていた、自転車で田んぼが広がる見晴らしのいい砂利道で。何するでもなく、時々歌って。詩を考えたり。知らない道を開拓したり。
チャリンコは私の行動範囲を広げた。車はいまだに周辺しか行けない。正直チャリンコの方が長い距離を走ってたんじゃないかな。今はもう乗らなくなってしまった。なんちゃってチャリンコ旅をした。引っ越したばかりの知らない土地を走りまくった。新居に帰れなくなって半泣きになった、バカをやった。あてどなく走らせるのが好きで、車じゃまだそこまでできない。
きっと周りからは変な目で見られているだろう。都会より歩く人が少ないのよ、中途半端な田舎だから。噂話もすぐ広がる狭い世界。出会う人に挨拶をしながら、歩く。あんまりおしゃれはしないで、歩く。乾燥してると砂ぼこりがひどい。今日は雨だからトラック屋さんの水はねにだけ気をつけて歩く。
小説なんて呼べない
書きなぐりの文章を
そろそろ家につく
そろそろおわり
そろりそろりと歩いた
手足をそろえて歩いた
あ、そうそう子どもの頃
そろばん塾には行きたくない
習い事は断固拒否してた
ぞろぞろそろって
なんだか嫌だった
そろそろそろえて
そろそろほんとに
そろそろおしまい
おさんぽのはなし
おさんぽ 新吉 @bottiti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます