第38話PKプレイヤーによる告白

「マユ、リ…?」


 俺が不思議な反応を見せたからか、この人も疑問を抱いたように聞いてきた。


「マユリじゃなくてマユとユリだ」


「…だ、れ?」


「えーっと…お、俺のフレンド────」


 俺がそう言った瞬間にこの人は俺を持ち上げたまま、マユとユリの元に風のような速さで向かった。速すぎて移動するたびにダメージ1が入っている。風だけでダメージが入るとか…やばすぎる。まあダメージ1ぐらいなら気にするほどでもないんだけどな。

 やがてさっきはあんなに遠かった2人が、今はもう目の前にいた。

 2人は一心不乱に戦いあっていたが、俺たちの存在に気づいたみたいだ。…マユとユリは少なくともレベル差が10以上はあるはず…なんでいい勝負になってるんだ?


「マトくん?」


「───えっ、マト?」


 2人が同時に俺の方を見ると、次に俺のことを持ち上げているこの病的で異質な服装をしている人のことを見た。


「…マトくん、その人、誰?」


 マユが疑問に思ったのか、そんなことを聞いてくる。


「マ、ト…?名前、マトって、言う、の?」


「え、いや、はい…」


「マト…マ、ト…ふふ…」


 俺のことを持ち上げながら不気味に笑った。


「で、誰なの?マト、そいつ」


 ユリも疑問を持ってるようだ。


「お、俺だってよくわからない、助けてもらったんだけど…」


「わから、ない?私達の仲、でしょ?」


「へ、変なことを言うな!マ、マユ、違うからな!浮気とかしてないからな!」


 マユは恋愛関係に関してはかなり踏んではいけないところがあるため、早めに誤解を解いておく。


「浮、気…?」


「そう、私とマトくんは男女の付き合いをしてるから、そういうのやめてもらってもいいかな?」


「……」


 マユがそう言言いながら、こっちに近づいてきたと思ったら、俺を持ち上げたまま黙り込み、今度はその持ち上げていた左手を上にして俺のことをお姫様抱っこの片手バージョンみたいな感じで持ち上げた。


「ちょっ…!」


「聞いてなかったの?そういうのやめてって────」


「<呪言・囁く死>」


 この人が何かしらの言葉を発すると、マユとユリは一瞬で消えた。…いや、キルされた。残り人数はもう19/100だからペナルティはないだろうけど、なんかもっとマユとユリが戦生みたいな展開を予想してたんだけど…

 薄々思ってた…いや、ずっと思ってたけどレベルが違う。


「やべぇ…」


「に、逃げろ!PKの中のトップランカーだ!」


 いつの間にか周りに人が集まっていた。…15人ぐらいいる。…PKのトップランカーってなんだ?PKって、確かプレイヤーキラーって意味だった気がするけど…このゲームにもそんな奴がいるのか、驚きだ。


「…うるさい、ね…<大鎌の削り>」


 そう言ってまたも何かを発すると、この人の空いている右手にいきなり大きな鎌が現れ、そのツインテールの髪を大きく揺らしながら一回転して、周りのプレイヤー15人を同時に一撃でキルした。


「……」


 え、ま、まさか…PKって…


「どうし、たの?」


「い、いや、な、なんでもない…」


 こ、これはやばい!ま、まさか…今俺のことを持ち上げてるこの人がさっき誰かが言ってたPKの中のトップランカーって人なのか…?

 …か、かっこいいな。さっきみたいな性格悪い人がPKなんてしてたら最悪だけど、多分この人がPKするのはさっきみたいな悪い人だけなんだろう。なんか…それはかっこいいな。

 この人は俺のことを下ろして、俺は地面に普通に立った。


「私が、PKって、知って、落胆、した?」


「いやいやいや!PKするのは悪い人だけなんだったらむしろかっこいいって!」


 さっきは15人ぐらいキルしてたけど、これはそういうクエストだし運営さんが悪い。


「ぅ……」


 俺がそう言うと、何か小さな言葉を漏らした。


「やっぱり、決めた」


「決めた…?何を?」


 何か決意を固めたような顔をしたけど、俺にはさっぱりわからない。


「結婚、する、結婚、じゃなくて、も、一緒に、居る」


「へ、へえ…そ、それはおめでとう」


 どうやら元々誰かと付き合っていたのか、それを言ってきた。なぜ今日会ったばかりの俺に言うのかは不明だ。


「なんで、他人事?」


「なんでって…言い方あれだけど他人だし…」


「あなたと、一緒に、いる、マト…」


「……え?」


 お、俺!?こ、この流れで俺なのか!?な、なんでだ、意味がわからない。この人とは正真正銘数十分前にあったばっかりだ。どこかで会ったとかでもない。


「も、申し訳ないけど他を当たってくれ、俺はまだレベルも低い初心者だ、足は引っ張りたくないし、それに俺たちはお互いのことを何も知らない、だからまあ、とりあえずは連絡先の交換をしよう」


 そこで留められれば…


「私、16歳、性別は女、見た目は、このアバター、と、ほとんど相違、ない…これで、私のこと、知ってる」


「え…そ、そう言うことじゃなくて…」


 何も知らないとは言ったけど別に自己紹介をして欲しかったわけじゃない。…同い年だったのか。


「住所も、言った方が、いい?来てくれるなら、言う」


「ち、違う違う!い、言わなくていい!」


 誰の耳があるかわからないこんなところで住所なんて聞けないし、2人だけのところでもそんな大事な情報を簡単に聞くわけにはいかない。


「…マト、は、何歳?」


「ああ、俺も一緒で16歳だ」


「一緒…」


 そう言うとこの人は少しの間沈黙したが、その沈黙をバヒュンッ!と言う音と共に俺の横を過ぎていったビームが破った。どうやらこの人が俺のことを咄嗟に横に動かしてくれたらしい。


「っ!」


 この人は怒ったような顔つきで俺の後ろの方に光の速度で移動し、いつの間にか誰かをキルしていた。多分ビームを放った人だ。

 これで残り人数が2/100になった。あとはこの人と俺だけだ。そういえば一緒に一位を取るとか言ってたけど、よくよく考えたら個人戦なため、一緒に一位を取るなんてことは不可能だ。


「ここまで来れただけで俺にとっては十分だから、あとは俺のことをキルして────」


 ブシャッ、という不快な音とともに、ゴスロリ服の少女は姿を消した…と言うより、自分の首を手に持っていた大鎌で跳ね飛ばした。…い、痛みがないからってそんなことできるもんなのか…?って!?


『バトルロイヤル 順位ランキング1位をとった報酬として『箱庭の勝者』の称号を与えます 次にキル順位ランキング1位をとったプレイヤーには『死の宣告者』の称号を与えます。なお、キル順位ランキング報酬の件に関しては全サーバーで1位をとったプレイヤーのみに与えられます』


 つまり『箱庭の勝者』はサーバーの数だけ持ってる人がいて『死の宣告者』を持ってる人は世界に1人だけなのか…でも称号なんて何かの役に立つのか?


「…って!だからそうじゃなくて!」


 な、なんで俺が1位なんて取ってるんだ!何もしてない、あの人が1位を取るべきだったのに…そ、そうだ、連絡先を交換するんだった、ちょっとそこについても後で問いただそう…その前に、マユとユリの件もあるし…やることがいっぱいだ。


 ────これにて俺の初めての『緊急クエスト バトルロイヤル』は幕を閉じた。

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