ホットケーキ

@kadhi

第1話


 慣れた手つきでパンケーキを焼く。既に、皿の上に5枚積まれていた。

 崩れない。まだ。もう1枚を積む。そして、もう1枚を焼く。自分の気持ちよりも高く積み上げられて、それが崩れ落ちれば諦めもつくかもしれない。高ければ高くなるほど簡単に崩壊するのだと。早く崩れてしまえば良い。今まで積み重ねてきたもの、積み上げてきたものも。少しのきっかけで簡単に崩れてしまうものしか知らなかった。


楽しかったな、と思い出す。

楽しかった。何度も衝突を繰り返しながらも重ねてきた長い日々、一瞬一瞬は、確かに臨也にとって幸福だった。もう、既に過去のことになっていることに気付いている。それで良かった。自分は、静雄とは違う。人を動かす口は幾らでも回るが、本音をぶつける方法なんて知らなかった。


過去となってしまえば良い。

そうすれば、あの日々を胸の内で閉じ込め、後生大事に抱え込むことが出来る。私は、自分を納得させることは、昔から得意だった。


彼がもう二度と来ない部屋で、彼の好物を焼き続ける。積み上げられた横で、何かが焦げる匂いがした。

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