Idle-Idol-Doll

富士蜜柑

Idle-Idol-Doll

誰が悪いの?

何が悪いの?

誰か教えて。

私は只の人形だから。

考える意思のない、役に立たない人形だから。


「卑しい私めに罰をお与えください」

毎日体裁だけは取り繕って教会へ向かい、主に礼拝をする。

「またあの人だよ」

「どう言う神経してるのかねぇ」

毎日懲りもせず訪れる私が浴びるのは、清く透き通った冷水のシャワーではなく、心に刺さる罵倒や非難の雨。

誰も革新など望まないレッテルだけの古い価値観が私の身体に塗りたくられていく。

どうせ私は操られるだけの人形。

押され回され呑まれてく運命。


でも、I dislike to say lies.ねえ。

私の中の獣たちが暴れ苦しみ煮え滾る。

それでいいのか。

お前の望みはその程度かと。


I dislike to say lies.ねえ。

そっとしといてくれないか。


「あーあーあー」

礼拝後教会で私は賛美歌を歌い主を称える舞踊を舞う。

力の抜けた、誰の得にもなりはしない歌と踊りを。

ふと、屋根から射す眩しい光に目を凝らしてみたくなる時がある。

世界を追われ、溶けてゆく私を重ねながら。


教会から一歩外へ出れば、巧言令色美辞麗句。

有象無象が行き交う通りが待ち受けている。

何を買い求めるでもなく、誰かを待つでもなく。

私は糸のちぎれた操り人形のように歩き回る。


溢れかえるような人混みを見ながら歩くと私の中の獣たちが盛んに声を揃えて言う。

「ねぇどこに行ったの貴方様?

私は迷える子羊です」

五月蝿い。

「音を齧っても息を飲んでもどうにもならない。

道は塞がっていくだけ。

それをどんな気持ちで眺めるつもり?」

どうにもならないことをペラペラと。

私は所詮悲しき修道女シスター

現実に敗れ、捨てられたのにだ。

転がり、傷つき、それでも転がり続ける。

私は終わった人形で。

役目の終わった人形だ。


そうだ。

裏の表の真犯人。

今この境遇を作り出したのは他でもないお前自身だ。

私の中の獣が叫び出す。

五月蝿い、そっとしてくれないか。


修道女シスター様、今日もお美しいですね」

通りを歩いていると、ある一人の青年が私に話しかけてくる。

「こんにちは。いつもありがとう」

私がそれだけ言って立ち去ろうとすると、彼はいつも決まって擬かしそうな表情を浮かべて笑う。

「明日もお話ししたいです」

と言って。

私は聞こえぬ振りで立ち去っていく。

彼の好意が怖い。

人の感情が怖い。

どうせ私は何時でも使い捨てられ流される。

そんなツギハギの感情の歌も、街路にゆらり揺られて消えていく。


本当は誰でもいいんだろ?

どんな愛情でも欲しいんだろ?

他人を愛したいんだろ?

私の中の獣が問いただす。

愛?こんな物が?

この気持ちは愛なんて大それた物じゃない。

偏頭痛かなさ。


I dislike to say lies.ねぇ。

もっと構ってくれないか。


Idle-Idol-Doll さぁ?

糸の千切れた歌と踊りを。

どうにもならないサカサマセカイに見せつけてやれ。

I dislike to say lies.ねぇ。

そっとしといてくれないか。


Idle-Idol-Doll さぁ?

力の入らぬ歌と踊りを、そっと戻ってくれないか。

I dislike to say lies.ねぇ。

もっと構ってくれないか。


Idle-Idol-Doll さぁ?

怠惰曖昧な歌と踊りを、さぁ。

I dislike to say lies.ねぇ。

ずっと愛してくれないか。





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