鏡よ鏡、嘘つき鏡
遊月奈喩多
第1話 始まりの白
世の中には似た人が3人くらいいるっていうけど、わたしの場合はそのうちのひとりがすぐ近くにいた。
物心ついたときからよく遊んでいた隣の家に住む幼馴染は、わたしにとてもよく似ていた。身長や体重もあまり変わらなかったし、食べ物の好みとか見てるテレビも一緒だった。
わたしたちはあまり覚えていないけど、幼稚園や小学校ではあまりにいろんなものが揃いすぎていて、「わたしと凜華はドッペルゲンガーなんじゃないか」なんて言われてしまっていたらしい。今でも母が笑い話の種にしてくるのは少しだけ恥ずかしかったけど、確かにわたしたちならそれも悪くないかな、なんて思ってもいた。
凜華とは服の好みも、芸能人の好みも、出掛けたときに食いついてしまうポイントも、合唱コンクールとかでの歌うパート分けも、かなりいろいろなことが同じだった。
少しだけ凜華の方が引っ込み思案でわたしが前に出ることが多かったけど、わたしが困っているとき凜華に助けてもらうことだってたくさんあったから、そんなのは大した違いにならない。
ずっと一緒にいたし、ずっとお揃いだった。親の仲がうまくいってないところも、それでお互いの家に居場所がないところも、同じだった。数年前になるだろうか、逃げ場がなくて近所の廃屋に行ったときに鉢合わせた彼女にそのことを打ち明けたとき、『ふーん、
その寂しそうな顔を見たとき、わたしは心に決めていた。この先何があってもわたしたちは一緒で、凜華が何か嫌なことがあったとき、もちろん嬉しいことがあったときにも、1番近くで分かち合える相手でいよう、って。
『ふふふっ、それなんかプロポーズみたい』
『……言わないでよ、恥ずかしい』
『私だって恥ずかしいし。でも嬉しいよ、ありがとう』
はにかんだような泣き笑いは月明かりのなかで妙に綺麗で、そのとき繋いだ手はいつもよりも特別なものに思えて。
そんな凜華が何よりも尊いもののように思えて――そこから、わたしの中には
だから、なのだろうか。
『ごめんね、今日彼氏とデートだから』
あの誓いを交わした日から、わたしたちにはお互い知らないことなんてなかったはずなのに……凜華から向けられたその言葉が、どうしても理解できなかった。
『なんか告白されちゃって、1回会ってみたら楽しくてね? だから、オッケーしちゃった。また明日、一緒に帰ろ?』
楽しそうに笑いながら、凜華が遠ざかっていく。
ねぇ、待ってよ。
ずっと一緒だって、言ったよね?
どんなことでも分かち合おうって……。
あのときの顔は、繋いだ手は、もう終わりなの?
わかっているはずだった、所詮は子どもの戯れ言で、口約束で、その場の勢いで、何かの拠り所を求めただけの言葉なんだって。誓いだなんて大それたものではなかったって。
でも、ずっと一緒だったのに。
ずっと、なんでも同じわたしたちだったのに。
突然突きつけられたようだった。
わたしたちは、別人なんだって。
それは、苦くて辛くて、吐き出してしまいたいような何かが、わたしの胸にずしっと重く堆積し始めた日だった。
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