もしも死ぬ勇気があったなら

キノハタ

ある車内にて

  死ぬ勇気があるならなんでもできるらしい。


 へえ、じゃ、死んでみるかあ。


 そんなありふれた話を語った親の隣で、僕は気楽に死を口走りながら車から飛び降りた。


 シートベルトを外して、ドアを開けて。


 下を見ると怖かった。凄い勢いで道路が後ろに駆け抜けていく。


 風がきつくてドアもうまく開かない。


 どれもこれも、引きこもってひょろひょろになったこの身体にはいささか重すぎる。


 でも、でもさ。死ぬ勇気があるなら、なんでもできるらしいぜ。


 ま、そりゃそうだね、人間で一番でかい生きたいっていう衝動を踏み越えるんだもね。


 それがあるなら、なんでもできる。まあ、そりゃそうだ。一理あるわな。


 

 はっはっはっ、クソったれ。



 何もできないから、死にたいんじゃないか。



 そんなふうに前を向けないから死にたいんじゃないか。



 生まれるエネルギーが全部下に向くから、死にたいんじゃねえのかよ。



 まあ、たしかにエネルギーは溜め込まれてるよたっぷりと。死ぬために、たっぷり貯蓄してある。



 でも、これは、それにしか使えない。



 そこんとこ、わかってないよなあ。



 あんた母親も、あんた父親もさ。


 

 わかってねえよ。


 

 わかってねえんだよ。



 足が震えた。血の気が引いた。歯が音を鳴らす。涙がこぼれてくる。



 怖い、な。



 でも決めてたからな。


 次、自分の心を話して。


 もし。


 もし、まったく、それでも理解されなかったら。


 もう、諦めようって。


 人間、説得で有効なのは4回目までらしいから。


 そして、これが晴れて記念すべき4回目なんだよ。


 今回も案の定というか、僕の心は理解されずに終わった。かけられた言葉はひどく冷たいもんだった。


 死ぬ勇気があればなんでもできる、か。


 本当に、素敵な言葉だ、今度、自殺志願者を集めて講演でもひらけばいい。


 一体、何人がこの人達の前で死んでくれるかね。

 

 そして、この人たちはどれほど絶望してくれるだろうか。


 薄く笑って。前に転がるみたいに地面を蹴った。












ああ、あ






       い







   あ












  い













 た






























 ぁ









    ぁ













あ       あ












い     た  






   い


















しに






   た  く




  な







    な

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