一人暮らしだけど一人じゃない

シュタ・カリーナ

第1話

 俺はこの春、地元の大学を卒業して東京に越してきた。

 東京はすごい。少し歩けば店があるし、電車に乗ればどこにでも行ける。人も物も建物も、びっくりするほど多かった。


 さて俺が越してくるに当たって住むことになったのはこのアパート。木造二階建て、築四十年の古めかしいアパートだ。しかし数年前に水回りや痛んでるところをリフォームしたらしくアパートは綺麗。

 その中のある一室に俺は住むことになった。その部屋はどうやら何かが出るらしく今までの入居者に不幸が続いたらしい。やれ会社をクビになっただの、やれ事故に遭っただの、ただの偶然では? と思うようなことだった。俺は幽霊とかそういったものは見たことがないから信じていない。だから俺にとってはただの安い物件だった。


「中々良い部屋じゃないか」


 俺は早速部屋に入る。あと少しで引越し業者が来るはずだ。それまで少し部屋を見ているとしよう。

 リフォームをした数年前からほとんど使われていないのかキッチンやトイレ、風呂場は綺麗だ。ワンルームの至って平凡な間取り。近くにはスーパーも駅もあって会社からほど近い。こんな良い所に比較的安い値段で住めるとは、幽霊も様々である。

 それから俺は引越し業者が運んできた荷物の荷解きを行い生活環境を整える。


「よしっ、これでいいだろ」


 荷解きをしていると既に夕方。窓から夕焼け空が見える。今から買い物に行って夕食を決めるとしよう。

 こうしいて俺の一人暮らしが始まる。


 ◇◇◇


 それ・・は引っ越して初日に起こった。

 夕食を食べ終えテレビを見ていた時のことだ。


ピンポーン

「はいはーい」


 来客を知らせるチャイムが鳴り俺は玄関に向かい扉を開ける。しかしそこに人の姿はなかった。


「いたずらか? いや故障の可能性もあり得るな」


 俺は特に気にせずに再びテレビをみ見る。


 その数分後、風呂場から水の音がする。俺は確認しに風呂場の扉を開けると当然ながら誰もおらずシャワーの水が出しっぱであった。

 俺がおかしいと感じたのはそれからだった。


 それからも怪現象は続き、冷蔵庫の扉がいつの間にか空いていたり、キッチンからもの音がしたり、皿が洗われていたり、リビングには誰もいないはずなのに誰かの気配を感じたり。


「まさか幽霊が出るって本当なのか? いやでも流石に幽霊はいないだろ……」


 俺は部屋の電気を消して布団に潜る。どうせ朝になったら消えてるだろ。

 目を閉じる。チクタクと時計の音がする。実家から持ってきた時計で、もう何年も自室の壁にかけてあったものだ。だがなぜか不気味に感じる。


のしっ


 お腹に何かが乗る感覚がする。俺の胸に手をついたのか胸辺りにも感覚がする。手は段々と顔に方に近づいて、俺の顔に触れる。


「不審者かぁ!」

「きゃあぁ!?」


 俺は目をバチっと開けて体を起こす。

 すると女の子のような声が聞こえる。いや女の子がびっくりした顔でこちらを見ていた。


「……」

「……」


 互いを見つめあったまま時が流れる。

 俺は彼女を見つめる。彼女も俺を見つめる。彼女はそっと立って俺の横に来る。俺は彼女を見つめる。


「あのぅ、もしかして私のこと見えてますか?」

「ああ、誰だお前」

「!? は、初めましてっ。私ここの部屋に住んでる、いや住んでた? 住人でして、交通事故で死んだんですが幽霊になっちゃってまして。それで一人彷徨うのも嫌だったのでここの入居者と過ごそうかなぁと思ってたんですよ。まあ今まで誰も私のこと見えてませんでしたけど……」


 彼女はそう説明する。


「ピンポンを鳴らしたのは?」

「散歩に行ってて、帰ってきたらもうあなたがいたので鳴らさなくても良いんですが鳴らした方がいいかなぁ、と」

「風呂場から水音がしたのは?」

「帰ってきたのでシャワー浴びてました。まあいきなり開けられときは咄嗟に隠れましたけど」

「冷蔵庫が空いたり、キッチンから物音がしたのは?」

「冷蔵庫を開けたのはこの人はちゃんと料理する人なのかなぁと気になって開けました。物音はたぶん、私がお皿を洗っていたから、かな」

「リビングで気配がしたのは?」

「あなたと一緒にテレビ見てました。前の入居者テレビ持ってなくて、久しぶりでした」

「……」


 特に害はない。怪現象だと思っていたのは彼女の生活音だし、そういうものと割り切れば特に問題はない。恐らく今までの入居者は彼女の姿が見えなかったから怖かったのだろう。彼女が見えるなら怪現象なんて可愛いもんだ。


(というかこの子可愛いな。同い年ぐらいか?)


「ところで何であなたは私のことが見えてるんです?」

「さあ?」


 俺は別に神社とか寺とかそういう系の家ではないし、なぜ見えるのか、逆に俺が聞きたい。


「あなたはここから出ていくんですか? 今までの人は皆んな怖がって出て行きました」


 彼女は寂しそうに顔を垂れる。


「いや、俺はずっとここにいるよ。別に怖くないし、むしろ可愛い」

「か、かわっ」


 彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染め顔を逸らす。


「あ、あのっ、えっと、これからよろしくお願いします。私、ご飯も作れますし、お背中もお流しします。一緒に添い寝しても良いですよ?」


 上目遣いの彼女。一瞬ドキッとしてしまう。

 落ち着け俺、相手は幽霊だ。


「あ、ああよろしく?」

「はい、よろしくお願いします!」


 俺は幽霊との生活が始まった。

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