プロローグ

「ぜぇッ、・・・ハア」

砂塵舞う荒野の中、フードを頭から被った男3人が歩いている。頃は未明、

ここは砂漠。

ようやく日の光が地平線にもれ始め、天上の深い蒼の深淵が眠りから覚めたように空の色を戻しつつある。

「はあっ・・・たく、誰だよ、っ。こんな場所にワープさせやがって!」

風で目にかかる黒髪をフードに押し込みながら藍の瞳をもつ少年、沢渡 藍は同じく隣を歩いている長身の男を睨む。

「・・・あのねぇ、一番「近い」からって・・・あれを選んだのは君じゃないか。」

呆れた様子で白髪の若い、こちらも男性が、ほりの深い顔立ちを困ったように見せながら、

「どうもここは平行世界パラレルワールドみたいだね。」

と、辺りを見回す。彼はユーリ。本名をユーリ・アンドロビウス・ゼッカというが、長いので省略する。アンドロイドだが、科学の進歩により、もはや新しい人間といってもおかしくはない。背中に何やら細く長いものを背負っているが、これは剣である。鞘を出すと、白い刃がやや湾曲しており、鏡のように光を跳ね返す、鋭敏なつくりとなっている。

「ここは・・・うん、間違いない。タクラマカン砂漠だよ。」

「しらんし、そもそも・・・こんなことになったのは、宇宙空間が歪んだせいだし。・・・・つかゲートってなんだよ、どこのふぁんたじーですか?!フツーの高校生に要求する現実じゃねぇだろ・・!」

ズンズンと踏んでいるのかすら分からない柔らかな砂上を半ば踏みつけにしながら彼は吠える。

ゲート。突如彗星が北極の海上に落ちて出現した8つのゲートは冒険者によって世界が変わる。同じゲートをくぐっても一方はゲームに出てくるような世界で、一方は見覚えがあるのに世界の仕組みが違う、つまり今回のような場合だってある。

「ふん、喋ってっともたないぞ。はやくしろよ。」

遠くから悪態をつく声が聞こえる。藍はその方向に向かって忌々し気に吐く。

「ッこんな時だけ身軽なやつ。おい、カラス!ならこの荷物も一緒に持ってけ!!お前のエサだって入ってるんだぞ!」

「その名前で呼ばないでくれるか?俺は猫だ。」

冷静につっこみを入れるカラス、もとい彼の飼い猫であった獣人は黄金色の目を輝かせる。

「この荷台を引いてみるか?お前の寝床だぞ。」

「ちっ・・・」

もう一度暴言を吐こうとしたその時、

「「「!」」」

異変が起きた。


カラスは荷台を岩の近くに寄せ、爪を出してはやくも戦闘態勢に入っている。

藍は短剣を取り出した。彼のもつ特性として、異世界では自動的に炎の能力が付与されるので、モノであればなんでも力を移すことができる。

白い刃をスゥっと引き抜きながら、ユーリが前方をにらみつける。

それはやがて巨大な砂嵐を巻き込みながら現れた。


ヒュンッ!


足元に「矢」が刺さる。

続いてバラバラバラッと、矢継ぎ早に放たれる。ユーリが超人的な速さでそれらを打ち落とす。

相手は鎖かたびらを着た「馬賊」。

爆弾と思しきものが地面に投げつけられた、とっさにブーツで蹴飛ばす。どよめいた賊たちが慌てて逃げる。バン!と音がして爆発する。

そのとき

「まて。」

凛とした声が響き渡った。

途端に場がしずまる。

「その腕の裁き、また「やつら」か。」

賊の中から一人の声がした。

馬を進ませ槍を地面につき、黒いローブを外す。茶髪の短髪・目をもった「女僧侶」が姿を現した。

両側に部下を従えている。

「私は陽 臨生りんしょう。そこなる「稀人マレビト」よ。」

「わが村へ来てくれないか。大事な話がある。」


互いに顔を見合わせ、ほっと息をついた。

カラスがあくびをして荷台をもちなおす。

冒険開始から3週間。

「・・・っしゃああああ!!!」

ようやくゆっくりできるという喜びに、藍は砂漠の中心で叫んだ。





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