ホスト・ファミリー。

 俺への危険なボールは最初から両チームで折り込み済みなのだろう。


 俺はわずか1週前にアメリカの自尊心プライドであるアメリカ代表を打ち負かした。だから「アメリカを舐めるな」という彼らの「総意」の現れなのだ。ただ頭の方に行ったのは想定外だったようで、単純に投手のコントロールの問題だろう。


 もちろん体表硬化の魔法スキルで痛くも痒くもない。「頭に来た」けどね。


 アメリカにおける日本人は黄色い猿イエローモンキー。これは20世紀初頭からずっと変わらぬアメリカの正義だ。特に有色人種の差別がキツい南部では仕方がない。


 しかもアジア系は黒人からも差別される。アジア人の方が黒人よりも後からアメリカ大陸に入ったからだ。そう言う意味で俺にとっては心地良い環境だ。社会エリートの白人や肉体エリートの黒人に尊重されたければ実力を示すしかない。


これぞまさに下克上の世界なのだ。


 第2打席もいきなりインハイから入る。タイムを取ったキャッチャーが慌ててマウンドへ向かったので逆球だったのだろうか。さすがにこれ以上やると警告試合になりかねない。


 もっともジェレミー氏にしても思い切り腕を振った結果なのだから悪気もへったくれもない。ここはメジャーじゃない。掃いて捨てるほど溢れた才能が互いに潰し合い、上を目指して勝ち抜く場所なのだ。


 今度はアウトローに良いボールが決まる。少し外側だと思うがストライク。球審も内角攻めのやり合いを恐れてちょっとゾーンを外にずらしてきたんだろう。そして3球目。ひざ元へのカーブ。


 十分に魔法スキルで思考加速された俺の状態なら小学生の投げる球にしか見えない。球はバットに捉えられると一撃魔法も発動。信じられない速度と角度で打ち返される。


 ただ打球はバックスクリーンに当たったが超えることはなかった。ジェレミー氏は俺に死球を当てた時のおどけた表情とは違い、敵意のこもった眼になっていた。それだよそれ。とりあえずライバルにはなれたかな。


 俺の2ランで3対2と勝ち越し、最終回は俺がマウンドに。インハイへの4シームバックスピンとアウトローの4シームジャイロだけできっちりと抑える。回転をしっかり加えているためしかもストライクゾーンを通って頭に向かってホップするように見えるかもしらんが。尻餅ついてもストライク。あとは球審が恣意的にわざと外角に2インチほど広げたストライクゾーンを存分に活用させてもらった。


 3対2でクッキーズがスターズを降した。シーズン128試合の始まりである。


 今日はかなり「イキって」いたのだが、イニング間のイベントのビンゴ大会の景品が俺との記念撮影だったらしく、試合後に無邪気な少年少女との記念撮影の間にすっかり俺の機嫌は戻っていた。イースター休みらしく子どもたちの観客もちらほら。皮肉にも幼い子どもほど人種差別の概念が無いんだよな。


 俺は試合後「ホストファミリー」との待ち合わせ場所へと向かう。待っていたのは長身の、と言っても俺と同じくらいの背丈の白人男性。恐らく40代半ばくらい。


「まいど。ジョニー・マフィンやで。」

流暢な関西弁だと?そう驚愕する俺を尻目にすぐに英語に切り替わる。

「ごめん。実は関西バイソンズと南高麗の球団に1年づつおってん。日本語は挨拶くらいしか覚えてへんけど。」

英語はしっかり南部なまり。


 元プロ野球選手であったジョニー氏はその縁もあり、故郷に戻った際に日本や南高麗の学生がアラバマ州立大学へ留学する時、ホストファミリーとして受け入れてくれているそうだ。


 奥様のルビーさんは弁護士さん。旦那さんの現役時代は代理人もしていたそうだ。お子さんは二人。10歳のルーカス君とお姉ちゃんの13歳ライリーちゃん、いや、ライリーさん。


 ルーク(ルーカス)はすぐに

「ケン、試合、超カッコよかった!よろしくね。」

と即、歓迎モードだったがライリーは

「ふん。」

と一言。無関心丸出しでこちらには目もくれず携帯をいじっていました。おお、コイツは触らぬ神に祟り無し案件や。リアル妹持ちの俺は即不干渉を決めこんだ。

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