過酷なマイナー生活はじめました。

新たな戦いの地へと。

 翌日はホテルで記者会見。それぞれが長かった戦いの日々を振り返る。みな一様に国民の期待という重圧の強さ、最後は一致団結して勝利を掴み取れたことへの喜びを語っていた。


「健ちゃ⋯⋯沢村選手は、いかがでしたか?」

俺にも質問が振られる。最初の会見の時は「ついで」のようだったが、なんと今回はヰチローさんの次だ。


「僕はプロとしてはまだまだ『駆け出し』ですので、失うものは何もないんで、とにかく自分を出し切りました。素晴らしい先輩ばかりだったので、自分が失敗してもなんとかしてくれるはずだ、と思い切り甘えさせていただきました。⋯⋯僕はまだまだ発展途上ですけど、いつかは自分より若い世代の選手を力づけられるような、そんな選手を目指したいです。」

YES、模範解答。


 帰国する国内組を見送りにロサンゼルス国際空港まで。向こうもすぐに開幕を迎える。終わりじゃなくてやっと始まるのだ。


「そう言えば健はどこへ行くか決まったんか?」

 みんなを見送った後、メジャー組もそれぞれが国内線で自分の所属球団ホームへ戻るのだ。


 実は昨晩、試合後に代理人のケントから次の行き先がすでに告げられていたのだ。


「モンゴメリーです。」

「どこそれ?」

当然の反応だ。

「アラバマ州です。」

「うん。それだけ聞いて分かると思うなよ、。」


みんな磐村さんの方を見るがやはり知らなさそう。

「フロリダのすぐ隣の州らしいです。クッキーズというマイナー球団です。」


「ああ。」

ようやく磐村さんが思いついた模様。マイナー経験ないからすぐには思いつかないだろう。でも隣の州だぜ?


「ふーん。そう言えばAAダブルエーだったよな。」


 以下マイナーリーグについての説明文なので、いらない人は★まで飛ばして大丈夫。


 簡単に説明しておくと、メジャーリーグは選手、監督、コーチを一元管理しており、傘下にある球団に派遣しているのだ。だから経営者はメジャーとマイナーの球団はそれぞれ違う。親会社子会社というよりは「提携会社」という位置付けだ。だから提携先が変わることもよくある。


 マイナーリーグは7階層になっていて下からR(ルーキー)、R +(ルーキーアドバンス)、A−(ショートシーズンシングルA)、A(シングルA)、A +(シングルAアドバンス)、AA(ダブルA)、AAA(トリプルA)となっている。


 アメリカの学校は6月が卒業シーズンなので、R、R+、A−の下の3階層は7月から9月までの短期リーグ(ショートシーズン)というわけだ。ちなみに俺は昨年R+でデビュー。五輪期間を経てA−に昇格してシーズンを終えた。


 そしてAからAAAまでが4月から9月までのフルシーズンとなる。


 ちなみにどの階層にもオールスターゲームとポストシーズンがあって地区優勝、リーグ優勝、AAAではナショナル・シリーズなんかもある。それは球団自体は独立採算制の別球団だからだ。


 マイナー球団のオール「スター」とかなんやねん!とツッコミたくもなるがそこは我慢しよう。



「高卒でいきなりAでも大したもんだけどAAかぁ。結構な飛び級だな。」

「いやいや、WBCで十分結果出してんだから。いきなりメジャーでも健なら通用するだろ。」


ただ、球団の育成方針もある。身体が出来上がってないうちにメジャーで使うことを是としない傾向にあるのも事実なのだ。


 ただロスからの直行便はなく、テキサス州のダラス空港で乗り継ぎするため目的地のモンゴメリーまで6時間はかかるのだ。


 所属先球団が決まったのが昨日だったので、最初の1週間ほどホテル暮らしのようだ。これも契約金がたっぷりあるおかげのホテル暮らしで大抵のマイナー選手はそんな贅沢はできないそうだ。中にはガレージの軒先を借りてほぼ野宿なんて話も。もっともAAなのでそこまでは悲惨ではないはずだ。日本で言うところのプロ野球の二軍レベルらしい。「らしい」というのはどちらも俺はプレーしたことないからね。


 モンゴメリーに着いた俺はホテルで一泊し、翌日球団に顔を出すことにした。


(令和3年よりマイナーリーグが改組され、この物語に出てくる詳細と異なっております。ご了承ください。作者)


 

 

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