過去の栄光の地で。

 翌日は空路でサンディエゴに移動。飛行機で1時間ちょっと。アリゾナに負けず劣らず温暖である。


 移動日が休養日でもあったのでゆっくりと過ごし、翌14日には会場となるペトロパークで公式練習。


 参加16か国16チームから半数の8チームが勝ち上がり、4チームずつ2プールに分かれて準決勝に進む4チーム入りを目指すのだ。


 方式は第一ラウンドと同じ「ダブルエリミネーション」方式。ここサンディエゴのペトロ球場パークで行われる「サンディエゴ・ラウンド」には日本、南高麗、メキシコ、キューバの4チームが参加する。2敗する前に2勝する。この方式は変わらない。


 「いまいち、よくわからんシステムよな。」

 投手陣で練習をしていると田仲さんがぼそりとつぶやくように言った。確かに一敗したらすべてが終わる高校野球に親しんでいるとそうかもしれん。

「でもシニアの時は敗者復活戦はいかつありましたよね?」

「そうだっけ?」

田仲さんは関西のシニアだったのでシステムが違ったのだろうか。


 マウンドの感触(硬さ)や傾斜、高さをみんなで確認する。

「やっぱり日本のマウンドの方が投げやすいよなぁ。」

そこが投手陣の総意だった。


 ペトロパークは新しい球場だが、昔の球場の雰囲気を取りいれたモダンな感じになっている。2年前は決勝戦がここで行われ、日本がキューバを破って優勝した栄光の歴史がある。「縁起がいい」のは確かだ。


 そして、初戦の相手はそのキューバである。

練習後は公式会見に臨む。波羅監督がめちゃ熱く語っていた。なんとなくチームの精神的柱であるヰチローさんのクールさ加減と対象的ではあるがこれは立場の違いだ。


 「サムライ」なので闘争心を表に出すよりも、内側で燃やして置いて、現すべきその一瞬のために神経を研ぎ澄ませている感じだ。


 ぼーっとしていたら俺にも質問が振られていた。

「あ⋯⋯はい。左を見ても一流、右を見ても一流なので一日一日が勉強になります。」

無難な答えをしておく。

「じゃあ、俺の背中からも十分に学ぶように。」

前に座った椙内さんがナイスボケ。

「あ、そこは一つ飛ばして一流さん。」

「酷いな。」

自分で振ったじゃないですか。まぁ満更でもなさそうなのでその答えで正解だったのだろう。


 初戦はデーゲームでキューバ戦。

なかなかの炎天下。ただ日本の夏とは違い湿気は少ないものの、球場はレフトスタンドの外側にすぐ海がそばにある関係でなかなか強い陸風が吹く。これ、ナイトゲームの時は風が逆に吹くパターンかな?


 キューバ先発はチャップリン氏。平均球速が160km/hとかいう怪物。最速じゃなくて平均というのがね。多分こいつも俺と同じく異世界からの転生者ではと疑いたくなる。日本の先発はエース松阪さん。


 ただ、キューバチームのいやらしさは捕手の錠島さんの構えたところを声に出して打者に教えているところ。スペイン語ならこちらに分からないと思っているのだろうが。一死から二連安打で出たところで声をかけることにした。


「へい!卑怯モノども。俺はスペイン語は分かっているからな!キューバがアメリカ以下の野球をやったらタダではおかんぞ!それがお前らのプライドか?」


 俺がスペイン語で怒鳴るとピタリと止む。確かにバレなければ何をしてもいいと教わってきた連中なので仕方ない。これは文化の違いなのだ。


 ただ、敵が卑怯な⋯⋯いや利口な手を使えば百万倍にして返すのが俺の流儀だ。今日は手を抜かずに粉砕する。魔法でな。おっと俺も卑怯⋯⋯いや、利口だからな。


 そこから露骨な声が上がることはなかった。バッテリーは最初から予期していたそうで構えを工夫していたようだ。さすがはメジャーリーガーだ。


 試合は早くも2回表。四球二つでノーアウト二塁一塁で俺に回ってくる。どれだけ球が速くてもストライクゾーンに入らなければ意味はないのだ。


 俺は卑劣な⋯⋯いや利口なスパイ行為へのお返しもあり入念に魔法をかけて臨んだ。



 

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