WBCで歴史的瞬間に立ちあってみた。
WBC、開幕しました。
ついにWBCの第一ラウンドがはじまる。
「東京ラウンド」に参加するのは4か国。日本、南高麗、中国、台湾である。第一ラウンドは参加16か国を4つのグループにわけ、それぞれのグループ上位2チームが第二ラウンドへ進む。
そして、話をややこしくするのが「ダブルエリミネーション」といわれる変則トーナメント方式だ。なるべく手短に説明すると4チームでトーナメントを組んで優勝すれば1抜け。
そして初戦を負けた2チームが3位決定戦をし、3位と決勝を負けたチームが戦って勝ったチームが2抜け。最後に1抜けと2抜けが対戦して勝った方が予選1位、負けた方が2位で進出となるのだ。
正直言って俺も理解するのにだいぶ時間がかかった。ようは2敗するよりも先に2勝すればいいという話だ。
「お客さん入ってるねぇ。」
公式には4万3,000人を超える観客。勝って当然という雰囲気は五輪以上だが、五輪と違うのはメジャー組がデンと真ん中で構えていることで俺たちの精神的支えになっている。
オープニングセレモニーの後、試合開始。
日本の先発はダルさん。素晴らしい立ち上がり。
一方、中国の先発は李辰浩氏。技巧派のベテラン投手だ。初回から日本は一死三塁二塁の絶好機だったが低めによくコントロールされた変化球でかわされ、無得点に終わる。
ダルさん2回は四球で
「7番、指名打者沢村。背番号∞。」
ベンチの指示は「右打ち」。李氏が右投手なので左打席へ。内野はバント警戒。一応一球目はブラフでバントの構えもしてみる。さすがにフォークはないか。狙いはカーブ。
中堅と右翼が追うもそのままスタンドの最前列へ飛び込む。もうちょい広い球場だったら入っていないかも。先制2ラン(1号)。
ベンチに戻ると真っ先に監督に迎えられる。監督としてもプロ駆け出しの俺を使うことにはプレッシャーがあったはず。その起用に応えた形だ。
「健ちゃん、今のがプロ1号?」
ベンチに座ると前に座っていた蒼木さんが振り向いて俺に訊く。
「あれ?どうなんですかね。マイナーリーグもプロのうちなら去年打ってますけど。あれ?日本の場合は一軍の試合で打ったら初か。だとメジャーに上がる前のはノーカンですよね。でも公式戦だけどちょっと違う⋯⋯?」
俺は混乱している。俺が助けを求めるように信塚コーチを見ると
「俺も知らん。」
とにべもなく突き放された。
続く3回には四球で出た仲島さんがすかさず盗塁。つづく蒼木さんの中前安打でチャンスを広げる。因幡さんの併殺崩れの間に1点。さらに4番武良多さんにも2ラン本塁打が出て併せて3点追加。
俺は後の打席は相手にしてもらえず3四球。6回の時は三番手投手の孫さんのボークで三塁にいた俺がホームインという珍事に。アンダースローっぽいサイドスローなんだけど、なぜか投球モーションに入ってから一塁けん制するというきわめて珍しいパターン。大ベテランらしいがやはり初戦では緊張したのだろうか。
日本野球の守備の堅実さと比較すると、中国代表は暴投も守備のエラーもあり、とれるアウトを逃したり、やらなくてもいい点を献上したり。これでは
ダルさんは4回まで安打すら許さず、和久井さんへ。和久井さんも2
6対0での勝利だった。ヒーローインタビューはダルさんと武良多さん。二人とも初戦で結果が出せたことに心底ほっとしているようだった。
俺も記者さんたちに、打った本塁打について聞かれる。
「あ、はい。カーブでした。先制点を挙げられてよかったです。」
「もっといい
そんなこと聞く?
「いえ。チャンスをいただけるだけでもありがたいです。」
「明後日は因縁の南高麗戦だけど意気込みは?」
答えづらいことを聞くなぁ。
「『因縁』の意味は分かりませんけど、ベストを尽くすことには変わりはないです。」
ここ相手に少しでも変わったことを言うと炎上してしまうのは覚えたので無難な物言いに努める。ただ、まさか何度も何度も同じチームと対戦することになるとはまだ思っていなかったのだ。
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