万年補欠の下克上!!(第2期)ー外れスキル【支援魔法(対単体)】のみのドン底勇者は、野球少年に再転生してメジャーリーグへ挑むー

風庭悠

WBCで世界一を目指してみた。

下克上の「!!(2本目)」

 「上には上がいる。」

それがこの世界の現実。


 たとえば野球というスポーツで説明してみよう。

地元の学童やリトルでエースでも、中学に上がれば自分よりも上のやつらはざらにいる。


 そいつらをなんとか押しのけ、いつしか地元でNo.1の選手と言われても、名門校の扉を叩いて見ればそこにはさらなる怪物がいる。


 そんなやつらと死ぬ思いをして勝ち抜いて、やっとのことでプロになって見ればそこにはさらにとんでもない化け物がいる。


 頂点を極めてみれば、そこはただの新たな地平の始まりにすぎぬのだ。


 平成21年2月15日。宮崎市内のホテルに集められたのは3月から開催されるWBC(ワールド・ベースボール・チャンピオンシップ)の事前合宿に招集された33名の選手たち。このうち28人が正式な代表となるため、最終選考合宿ともいえるかもしれない。


 俺が全体ミーティングに飽き、あくびと眠気を噛み殺しながら上記のキモいポエムを吟じているうちにやっとお開きになる。


 なんとか寝ずに持ちこたえたな。メジャーリーガーたちに殺到する報道陣とカメラのフラッシュを尻目に自分の部屋に戻ろうとすると由香さんに声をかけられた。


「健くん。あらいやだ。学校の制服なんか着てきたの?」

俺の「私服」を見咎みとがめられる。

「ええ、まだ高校生活は3週間ほど残っていますし。」

 卒業式の3月9日まで俺は高校生なのだ。そこから先は永遠に着る機会のない制服を着るのも悪くはない。


由香さんは意地悪そうに笑いながら言った。

「とか言って、実は美咲みさきちゃんや亜美あみちゃんに『無難に制服にしとけ』って言われただけなんじゃないの?」

「う、それは……。」


  そう、実は俺の私服のセンスが壊滅的にださいので、妹の美咲や幼馴染から彼女に昇格した亜美に強く勧められたのは図星だ。


小原由香おはらゆかさん。俺を3年前の中学3年の頃から追っかけ取材しているスポーツ・ジャーナリストだ。年齢としも俺より一回り上のお姉さんである。なので色々と世話を焼かれてしまっているのだ。

「世界と戦うわけだけど、勝利のポイントはどこにあるか聞かせて?」

は?今それを俺に聞くかね。


「いやぁ。お……僕は最年少で、プロといってもマイナーリーグで2か月しかやってないですし。まず代表メンバーに残るのが目標ですよ。」

「あら、ずいぶんとご謙遜ね。五輪ヲリンピックの英雄なんだからもっと胸張ってもいいのよ。」


 前年の北京五輪、俺は日本代表として参加、打者として12本塁打、投手として1勝2Sとチームの金メダル獲得に貢献した。そのかいもあって今回も日本代表候補に呼ばれたのだ。他の記者さんたちも俺を囲む。


 「健ちゃん、今回は本塁打は何本いけそう?」

当然、五輪代表チームそこでもぶっちぎりの最年少だった俺はチームメイトからも取材陣からも「健ちゃん」とかわいがっていただき、それが世間様にも定着して今日に至っているのだ。

「いや、まずは試合で使っていただけるように頑張らないと……。それより俺みたいな当落線上ぎりぎりの選手じゃなくて読者様が求める方を取材した方がよくないスか?」

俺が見た先にいるのはメジャーリーガー、シアトル・マトリクスのヰチローさんだ。まだ大勢の取材陣に囲まれている。ニットにデニムという軽装だが存在感オーラが凄まじい。


 もちろん彼だけではなく、現役メジャーリーガーが5人も今回の大会に参加を予定しているのだ。かれらにも記者たちがインタビューを試みていた。

「あら、あなたも十分に視聴者需要が高いのよ。特に小中学生の間あなたは大人気なんだから。今回は、メジャーでやってる選手たちとも戦うわけだけど、意気込みは?」


俺の脳内には先ほどのポエムが残っていた。

「そびえたつ山に挑む感じじゃないですかね。しかも楽には登らせてもらえないようなとんでもない絶壁な感じ。」

 昨シーズンの夏からマイナーリーガーとしてプロデビューを果たした俺にとって彼らは超えるべき壁だ。それは恐ろしく高く、険しく、そして厳しい。


 だが、俺にはそれを超えるための「翼」がある。

俺の名は沢村健さわむらけん。俺は異世界にいた前世、「外れスキル」だった支援魔法(対単体)しかもたない底辺勇者だった。しかし転生先のこの球界でその外れスキルで底辺マイナーリーグから下剋上していく物語である。







 


 


 



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