第14話 好きだから-14

 「あたしは、ワルっていうわけじゃないんだけど、まぁ、ちょっとは名前が知られていてね、ケンカばかりしてたのよ。あたしがしたいんじゃなくって、相手が次から次から来るのよね。まぁ、さっきのを見ててもわかると思うけど、そのへんの連中には負けないんだから、別に心配はないの。それに、嫌いじゃないから、暴れるのは。それで、退学というわけでないけど、学校にも居づらくなっちゃってね。お母さんが死んじゃってたこともあって、どうやって生活しようかって…、あ、あたしんとこは母子家庭だったから。

 それで、去年まで担任してた由起子先生が、あたしの師匠でもあるんだけど、こっちの学校に来て、それであたしにも転校して来ないかって、声を掛けてくれたの。でも、引っ越しても、また挑戦してくる連中はいるだろうから、変装して偽名で通えばどうだろうって話になって、じゃあいっそのこと男の子になっちゃおうかってことで、こんなことしてたの。まぁ、色々面倒なことになって、もうやめようかって今日話してたの」

「でも、友崎…君」

「違うの。本名は、清水朝夢見あゆみっていうの」

「あゆみさん?」

「そう」

「朝(あした)を、夢、見る子、という意味で、朝夢見」

「でも、あゆみさん、どっちにしても、中学生がクラブでアルバイトはできない、でしょ。男の子でも女の子でも」

「あそこは、由起子先生の昔のお友達の店で、特別なの。普通の店でアルバイトやってるとばれちゃうし、こういう店のほうが学校関係の人間の人目がつきにくいから、いいんじゃないかってことでやらせてもらってるの」

「そうなの」

「うん、それに、あたし、結構発育いいから、高校生で通っちゃう。ね、こないだ、わかんなかったでしょ?」

「う、うん」

「さらしもきついし、ずっと体育さぼってもいられないし、色々不都合もあるから、そろそろ潮時ってとこね」

「あ、あの、空手とか柔道とか習ってたの?」

「うん、一通りね」

「じゃあ、段とか持ってるの?」

「んん、持ってないわ」

「あんなに強いのに?じゃあ、どうしてみんな挑戦してくるの?」

「それはね」

 あゆみさんは、私をじっと見つめながら言いました。

「わたしが、三代目ファントム・レディだからよ」

「ファントム・レディ?」

「知らないわね。知らなくていいのよ、あなたは。最強無敗の女、ファントム・レディ」

「最強?」

あゆみさんは微笑んでいます。何かわからないけれど、随分あゆみさんが大人に見えます。同じ歳だとは思えません。

「実は、言っちゃいけないかもしれないけど、二代目は由起子先生なのよ」

「そうなの…」

「さぁ、明日から、女の子に戻らなきゃ、ね」

 あゆみさんが女の子で、私の頭は混乱してしまって何も考えることができなくなってしまい、ただあゆみさんを見つめるだけです。

「ごめんなさいね、随分ひどいことして」

「…ぁあ、んん、いいの」

 そう言いながらもよく考えたら、告白していたのです。

 早まったなと思いながら、うつむき加減に覗き見てみるとあゆみさんは何も気にしていないようでした。夕焼けの中で微笑むあゆみさんは、チャーミングで、キュートで、うまく言えないけど、とてもかわいくて、見入ってしまいました。


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