第4話 好きだから-4

 昨日の午後から、友崎君はちゃんと授業に出ています。ただ、居眠りばかりしています。今日も朝から、ずっと寝ています。よくこの学校に編入できたな、と感心するばかりです。

 今日の6時間目には、また山元先生の授業があります。どうなることか、少し不安です。

 そんなことを考えていると、4時間目が終わりました。お昼休みで、急に賑やかになった教室の中で、まだ友崎君は眠っています。と、むっくりと起き上がり、教室を出ていきました。誰も友崎君に気づいていないかのようでした。友崎君も誰と関わるでもなく、すっと出ていきました。私は気になったので、お弁当を持ってついて行こうとしました。和美ちゃんが、どこ行くの、と問いかけてきましたが、私は答えず、ちょっと、とだけ言いました。和美ちゃんは私の視線の先に友崎君がいるのに気づき、

「放っておきなよ」と言いましたが、どうしても私は気になったので、和美ちゃんの言葉も聞き入れず教室を出ました。

 友崎君の行き先は、やっぱり屋上でした。

 私が友崎君に続いて屋上に出ると、そこに二人の男子が座っていました。友崎君は、軽い調子で、よぉ、と挨拶をすると、相手の二人も挨拶を返しました。でも、その二人の挨拶は、友崎君に比べると堅い、緊張した様子でした。

「今日もよろしくな」

 友崎君はそう言うと、二人の横に座り込みました。二人は警戒した様子で、友崎君を見ていました。

「さぁ、始めようぜ」

 友崎君の声に反応して、一人がポケットから何かを取り出しました。そして、それを手でシャッフルすると、三人の前に配りはじめました。どうやら、トランプ、いえ、もう少し小さくて黒いカードのようです。配り終わるのを待ちきれないかのように友崎君はそれを

手にして、

「さぁ、こい」と、叫びました。すると、二人にも緊張した雰囲気が漂い、ゲームが始まったのです。私はゆっくりと三人に近づき、輪を覗き込みました。

「おまえもやるか」

 友崎君は初めて私に向かって話し掛けてきました。

「なにしてるの?」

「見りゃわかるだろ、花札だよ」

 私は呆気に取られて見ていました。ほどなく、友崎君が勝ち、一人が頭を抱えて叫びました。

「ちくしょう!」

「悪いね。またまた、勝たせてもらいました。じゃあ、一〇〇円」

「またかよぉ」

「よし、次」

「こい!」

 うっかり見入ってしまっていたのですが、お金を賭けているようでした。

「友崎君、これ、お金賭けてるの?」

「そうさ」

 私が驚いて何も言えないでいると、友崎君は私の方に顔を向け、

「当然だろ、こんなことくらい。おかげで昼飯代が手に入るんだ」

「でも、いいの?」

「由起子先生には内緒だぜ」

 真剣な二人を尻目に、友崎君はまた勝ってしまいました。悔しがる二人を前に、またお金を受け取っている友崎君は、きれいな目を輝かせて、とても嬉しそうな表情でした。


 ずっと友崎君ばかりが勝って、『博打』は終わりました。お金をじゃらじゃら言わせながら、友崎君は購買へ走っていきました。私はただ見ているだけだったのをようやく思い出しました。まだ自分もお昼ごはんを食べていないことに気づき、慌てて時間を見ました。まだお昼休みはありました。ふと見ると、今まで友崎君が相手にしていた二人が、こっちを見ていました。私は急に緊張してしまい、何も言えなくなりました。

「ねぇ、あんたさぁ、もしかして、2年?」

「そうよ」

「じゃあ、あいつも2年?」

「友崎君?そうよ」

「なんだよ、俺らより上級かよ。制服が違うから、わかんなかったよ」

「ちょっとガキっぽい顔してるから、一緒かと思ったよ」

 そう言う彼らのバッジを見ると、赤色でした。

「あなたたち、1年生なの?」

「そうだよ」

「どこで、友崎君と知り合ったの?」

 一人が指を下に向けながら、屋上、と言いました。

「昨日、ここで花札やってたら、あいつが来てさぁ、一緒にやらせてくれって言ったんだよ」

「そう、あいつ、ここで寝ててさ、それで、やりたいって言うから混ぜてやったんだよ。だけどな、なぁ」

「あいつ、サギだぜ」

「そうさ、初めは適当に負けやがって、それで気合入れたいからって、金賭け始めたら急に強くなってさ」

「弁当代まきあげられちまった」

「今日も飯抜きだぜ。たまんねえな」

 二人は気の毒だと思いましたが、あまり時間がなかったので私は教室に戻ることにしました。

「私から友崎君に言っておくわ」

 二人にそう言って校舎に入りました。なんとかしなきゃ、と思いましたが、いい方法が思いつかなかったのです。和美ちゃんに相談しても、きっと緑川先生に言いつけることしか思いつかないことでしょう。誰に相談しようかと思いながら、教室に戻りました。まだ、友崎君はいませんでした。和美ちゃんが私を見つけて、どうだった、と訊いてきましたが、見つからなかったと嘘をつきました。そうして、どうしても、一人で考えないといけなくなったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る