第34話 第4階層 ダンジョンのボス その5
「ホノカさん、ボクに任せて! ボクが魔法を使うよ。魔法であの大蛇をやっつける! いくよ、バロンくん! ランダム魔法!!」
ヨウスケのマジックポイントが0になる。
杖の上に文字が浮かび上がる。
『魔法:ホーリー・フロッグ』
『発動条件:パーティからランダムに対象者が選ばれる。その対象者の最近のプライベートが再現される』
「また同じ発動条件だ! いくよ、みんな!! 2年B組 飯田 陽介、誰かのプライベートを暴露します!!」
ヨウスケは叫ぶ。
床に魔法陣が浮かび上がる。
そこからレンタロウが現れる。
左目に黒い眼帯。
右手は包帯に包まれている。
「遂にやったでゴザル! 人類史上に残る名著! 三連休を全て費やして書いた甲斐があったでゴザル!」
再現されたレンタロウは一冊のノートを高々と掲げる。
その表紙は黒く塗りつぶされ、『暗黒日記 第39巻』と記されている。
「えぇっ!? 暗黒日記って中学校時代に書いてたやつだよねっ? 高校2年生にもなって書き続けているの? しかも三連休全部使ったの!?」
ヨウスケはレンタロウに顔を向ける。
「せ、せせせ拙者、身に覚えがないでゴザルな~、ピュピュ~♪」
レンタロウは顔を真っ赤にして口笛を吹く。
唇がプルプル震えている。
再現されたレンタロウは暗黒日誌を開く。
大きな声で朗読する。
◇◆◇◆◇◆◇
11月2日 今日の出来事
今日は隣の席の女子・ゆいな殿と久しぶりに話したでゴザル。
ゆいな殿が落とした消しゴムを拾ってあげたでゴザルよ。
ゆいな殿はその消しゴムを机の上において、嬉しそうにずっと眺めていたでゴザル。
あぁっ! 本当はもっといっぱい、ゆいな殿と話したいでゴザル!
しかし! ダークシャドウ・ジュニアの魔術で女子たちは拙者と話さないようマインドコントロールされているでゴザル……。
でも、もしこのマインドコントロールが解けてしまったら……拙者の奪い合いがクラスの女子内で勃発してしまうでゴザル。
拙者がずっと守ってきた平和が拙者の魅力によって崩れる。
そんな皮肉には耐えられないでゴザルよっ!!
すまぬ、ゆいな殿!!
せめてもの償いとして、ゆいな殿にこの歌を捧げよう!
二人が出会った奇跡。
そのきっかけになった消しゴムについてでゴザル!
モ~ノ、モノモノ~消しゴムさん~
二人のキッカケ、キューピット~
いつもゴシゴシこすられる~
ハァハァ、
ハァハァ、
拙者もゆいな殿にゴシられたい~
ゆいな殿の嫌な過去も
拙者がゴシゴシ消すでゴザ~ル~
◇◆◇◆◇◆◇
再現されたレンタロウは静かに『暗黒日記 第39巻』を閉じる。
煙となって消えていった。
「えっ……うわぁ……それ、この前の三連休で書いたんだよね……えぇ~~~」
ヨウスケは青ざめる。
「こ……こんなのでっちあげでゴザル! こんなこと拙者が書くわけないでゴザろうっ!!」
涙目になるレンタロウ。
「あんたが原因だったのね! この前、ゆいなが席替えしたいって学級委員長の私に突然言ってきたのよっ!!」
レナはレンタロウを睨みつける。
「言いがかりでゴザル! 席替えしたい理由が拙者だって証拠はあるでゴザルか!?」
「『私の消しゴムを性的な目で見てくる気持ち悪いひとがいる』って言ってたのよ!! そんな人間いるはずないと思ってたけど……さっきの歌で確信したわ! あんたのことでしょうっ!!」
レナはレンタロウを指さす。
「レナ殿、落ち着くでゴザル! 拙者が拾ってあげた消しゴムを、ゆいな殿は嬉しそうに見つめておったでゴザルぞ!!」
言い返すレンタロウ。
「それは誤解よ。レンタロウくんが下校したあと、ゆいなさんはゴム手袋を三重にして爆弾処理班のような慎重さであの消しゴムを処理したわ」
リンは説明する。
「そんなっ! 誤解でゴザル!! きっと、拙者が触ったままの状態で消しゴムを保存したかったでゴザルよ!」
「いいえ。あなたが触ったあの消しゴムをゴミ袋で三重に包んで魔よけのお札を張っていたわ。ドラム缶に突っ込んでコンクリートで固めてから東京湾に沈めるって言ってたわよ」
リンは首を横に振る。
「怖いでゴザルよっ! ゆいな殿は一体何者でゴザルか!?」
「漁師の親戚にお願いするって言ってたわよ。机の上に消しゴムをずっと置いていたのも、レンタロウ菌が拡散しないようにしていたみたいね」
「レンタロウ菌!? そんな菌ないでゴザルよっ!!」
「近づかないでくれないかしら? 私までレンタロウ菌に感染してしまうわ」
リンは古書で体を隠す。
「発動条件クリアだぜぇ! 消しゴムに欲情するとは変態の中の変態! いくぜ、ホーリー・フロッグ!!」
バロンが叫ぶ。
地面に魔法陣が現れる。
そこから光り輝く一匹のカエルが現れた。
「えぇっ! 弱そうなんですけどっ!?」
レナはカエルを見つめる。
カエルは手のひらサイズしかない。
ピョンピョン飛び跳ねてデュラハンに近づく。
「安心してくれい、レナのねえさん! こいつの真価は強さじゃないぜ!!」
自信たっぷりなバロン。
「ケロッ、ケロケロー」
カエルはデュラハンの前で立ち止まる。
呑気な声で鳴く。
「んっ? どうした、我が眷属よ?」
デュラハンは大蛇に声を掛ける。
大蛇は首を持ち上げてカエルをじぃっと見つめる。
舌をチロチロ出し入れする。
口から大量のヨダレが滴り落ちる。
「シャァーーー!!」
大蛇はカエルに飛びつく。
カエルはジャンプして大蛇から逃れる。
「待てっ、我が眷属よっ!! この俺を守るのだ!」
デュラハンは怒鳴る。
大蛇にデュラハンの声は届かない。
カエルに夢中になっている。
カエルはピョンピョン飛び跳ねてデュラハンから遠ざかる。
カエルを追う大蛇。
「戻ってこい!! 我がけんぞくぅぅうううー!!」
デュラハンの叫びがむなしく広場に響く。
大蛇はカエルを追ってどこか彼方に消えて行った。
「これでお前に攻撃が当たる! 覚悟しろ、デュラハン!!」
ハヤトは信頼の剣をデュラハンに向ける。
「フンッ、だからどうした! 俺は強い! 貴様らはもう魔法が使えない。もう奇跡は起こらんぞ!!」
デュラハンは大剣を構える。
「デュラハンの言う通りよ。私とヨウスケくんはもう魔法が使えない。私たちにできるのは、捨て身覚悟でデュラハンのライフを少しでも削ること」
リンは信頼の剣を持って前に出る。
「リン、その剣! 少し光ってるぞ!!」
ハヤトはリンが手にしている信頼の剣を見つめる。
「ええ、佐々木小次郎への信頼がまだ少し残ってるのよ。さっきの消しゴム欲情事件のせいでだいぶ暗くなってしまったけれど……。ただのなまくらになる前に、私とレンタロウくんで少しでもデュラハンのライフを削るわ」
「作戦バッチリでゴザル!」
レンタロウとリンはデュラハンの前に立つ。
「雑魚は引っ込んでいろ!!」
デュラハンはレンタロウの頭に大剣を振り下ろす。
「かかったでゴザル! スキル・
レンタロウは両手を合わせてデュラハンの大剣を受け止める。
「なっ! 抜けないっ!?」
デュラハンは大剣をレンタロウの両手から抜こうとする。
「隙ありっ!」
リンはレンタロウの後ろから飛びだす。
信頼の剣をデュラハンの胸に突き刺す。
デュラハンのライフが25になる。
「ちっ、小賢しいまねをっ!!」
デュラハンは大剣を離し、リンの腹を拳で殴る。
「うっ……」
リンは後ろに吹き飛ばされて家の屋根に激突する。
ライフが0になり、煙となって消える。
「いつまで俺の剣を握っているのだ!!」
デュラハンはレンタロウの頭にげんこつを食らわせる。
「あいたっ!
レンタロウのライフが0になり、煙となって消える。
「これでもくらいなさいっ!!」
レナは信頼の剣でデュラハンに斬りかかる。
デュラハンは後ろに跳んでレナの攻撃を避ける。
「俺に剣術で勝てるわけないだろう!」
デュラハンはレナめがけて大剣を振り下ろす。
レナは信頼の剣を手から放す。
両手を使って深紅の盾でデュラハンの大剣を受け止める。
「あぁっ!! すっ……すごいっ!! こんな刺激……味わったこと……ないわ……」
レナは恍惚とした表情で空を見上げる。
ライフが0になる。
レナは満足そうに煙となって消えていく。
「この娘はなんで嬉しそうなんだ……」
デュラハンの意識が戦闘から離れる。
「えいっ!」
レナの後ろにいたヨウスケが飛びだす。
信頼の剣をデュラハンの脛に突き刺す。
デュラハンのライフが20になる。
「ちっ、雑魚が……邪魔だぁ!!」
デュラハンはヨウスケを蹴飛ばす。
「うわーーー!!」
ヨウスケはサッカーボールのように吹き飛ぶ。
家の煙突に激突する。
ライフが0になり煙となる。
「これで貴様ら二人だけだ。俺をここまで追い詰めたことは誉めてやろう! だがっ! 貴様らに勝機はない。フフフ……奥の手は最後までとっておくものだぞ」
デュラハンは腰に付けた革袋から小さな瓶を取りだした。
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