第33話 第4階層 ダンジョンのボス その4


 レナは一歩を踏み出す。


 デュラハンも前に出る。


 二人の剣が触れあった瞬間、広場は光りに包まれる。


 …………。


 光が収まると、レナとデュラハンはお互いに背を向けて立っていた。


「なっ……この俺がっ!」


 デュラハンが膝を着く。

 右の脇腹に大きな亀裂が走る。

 ライフが30になる。


「くっ……ダメかっ! 人間なら致命傷だけどね……。すまない、みんな! 仕留めきれなかった。武運を祈る!!」


 レナの体からアーサー王の霊が離脱する。

 レナは地面に膝を着く。

 自力で立てないほど疲れている。


「この俺のライフがここまで減るとはな……見事だったぞ! まずは貴様から消してやろう」


 デュラハンはレナに向かって歩き出す。


 必死に立ち上がろうとするレナ。

 脚に力が入らない。

 深紅の盾も装備していない。


 デュラハンはレナを見おろす。

 大剣を大きく振り上げる。


「さらばだ、女騎士よ!!」


 デュラハンが大剣を振り下ろしたとき――


「一発必中!!」


 ホノカの矢がデュラハンの右肩に突き刺さる。

 大剣の軌道がわずかにズレる。


「レナぁぁぁああー!!」


 ハヤトはレナに飛びつく。


 デュラハンの大剣が地面を切り裂く。


 ハヤトはレナを抱きしめたまま家の壁にぶつかる。


「大丈夫かっ、レナ!?」


 ハヤトはレナの上に覆いかぶさりながら訪ねる。


「あ、ありがとう……ハヤト……」


 レナは頬を赤らめてハヤトを見つめる。


「……って、んっ?」


 レナがいつもの表情に戻る。


「んっ? どうしたんだ?」


「あ、あんたね~~……一体どこ触ってるのかしら!?」


「触ってる? なんのこ……」


 ハヤトは言葉を失う。


 右手にぷにぷにスベスベの感触。

 ホノカとぶつかった時にも感じたあの感触だ。

 ホノカよりさらに大きい。

 しかも素肌の暖かさがダイレクトに伝わってくる。


「いつまで触ってるのよ! この変態!! 私はこんなちっさいビキニみたいな服しか着てないのよっ!?」


「あいたっ!」


 レナはハヤトの頬をビンタする。

 ハヤトは急いでレナから離れる。


「ハヤト殿!! あんまりでゴザろう!! ホノカ殿の胸を揉みしだき、今度はレナ殿!! 抜け駆けは許されぬでゴザルぞ!!」


 レンタロウは立ち上がる。

 全身から殺気をみなぎらせている。


「レンタロウくんが立ち上がったわっ! 怒りでいつも以上のパワーが出ているんだわ。今しかない! 具現化! 佐々木 小次郎ささき こじろう!!」


 リンは『剣豪列伝』を開く。

 マジックポイントが0になる。


 本から美青年の霊が浮かび上がる。

 涼しい顔立ちに背中まで伸びた髪。

 身の丈ほどもある長い刀を握っている。

 霊はレンタロウの体の中に入り込む。


「やぁやぁ、お嬢さん! ボクの魂を呼び起こしてくれてありがとう。いやー久しぶりの決闘、ワクワクするなー」


 レンタロウは信頼の剣を振り回してはしゃぐ。


「思ったより軽いわね……。まあ、いいわ、大剣豪・佐々木 小次郎! あの首なし騎士を倒してください!」


 リンは頭を下げる。


「もちろん! って、うわっ! 首がないよ!? それどーなってるの?」


 レンタロウはデュラハンを凝視する。


「俺は人間だったとき、主人を殺した罪で斬首刑になったのだ。主人は俺のことをずっと騙していた!! 俺の力を利用するために俺の両親を殺した! 孤児になった俺を救うと見せかけて、俺の力をただ利用していたのだ! 処刑されて首が飛んでもなお、この恨み、人間への不信感は消えずに闇のエネルギーとして残り続けた。そして今の俺が誕生したのだ!!」


 デュラハンは怒りで声を震わせる。


「ふーん、そうなんだー。ボクも宮本武蔵とはもう一度戦いたいなー。あいつ、決闘に2時間も遅れたんだよ? ボクはずっと正座して待ってたから、いざ戦うときに足が痺れて動けなかったんだよね~。それでやられちゃった。あはは~」


 レンタロウは思いだし笑いする。


「黙れ! 貴様に俺の何がわかるっ! 今すぐ叩き斬ってやろう!!」


 デュランは大剣を振り下ろす。


「おっと危ない」


 レンタロウは左に飛んで大剣を避ける。


「これでどうだっ!」


 デュラハンは大剣を水平になぎ払う。


「ひょいっと」


 レンタロウはしゃがんで大剣をかわす。


「すばしっこい奴だ……せいっ!!」


 デュラハンは大剣を下から上にすくい上げる。


「はっ!!」


 レンタロウは信頼の剣を振り下ろす。


 剣がぶつかり、そのまますれ違う。

 デュラハンの大剣は空を斬り、レンタロウの剣は地面に突き刺さる。


 レンタロウはニヤッと笑う。

 下から上に斬り上げる。


「いけるっ! あれが大剣豪・佐々木 小次郎の必殺技・燕返しつばめがえしよ!!」


 リンは古書をギュッと抱きしめる。


「くそっ!」


 デュラハンは後ろに飛び退くが間に合わない。

 信頼の剣がデュラハンの胸を斬り裂こうとしたとき――


 ガキッ!!


 鈍い金属音が響き渡る。


 大きな蛇が信頼の剣を口で受け止めている。

 デュラハンの首から飛び出した漆黒の蛇。

 分厚く黒光りする鱗で全身が覆われている。


「惜しかったな、佐々木小次郎よ! 奥の手は最後まで隠しておくものだ。この大蛇は俺の眷属。最高の防御力を誇る!」


 デュラハンは大蛇の頭を撫でる。

 大蛇は嬉しそうに舌をペロペロ出し入れする。


「ならば叩き斬るのみ!!」


 レンタロウは信頼の剣を蛇の頭に叩きつける。


 キーンっ!


 信頼の剣が弾き返される。

 蛇の頭にかすり傷ひとつついていない。


「無駄だ。信頼の剣は俺にダメージを与えられる唯一の武器。だが、物理的な強度は普通の剣と変わらない。そして、この大蛇の鱗は普通の剣では斬れない! この大蛇がいる限り、俺にダメージを与えることは不可能!! さらばだっ!」


 デュラハンはレンタロウに斬りかかる。

 レンタロウはデュラハンの大剣を受け流しきれずに後ろに吹き飛ばされる。

 家の壁に激突する。


「うっ……無念……」


 佐々木小次郎の霊がレンタロウの体から離れる。

 レンタロウのライフが10になる。


「一発必中!!」


 ホノカは大蛇に向かって矢を射る。


 カンッ!


 矢は大蛇に当たって跳ね返される。


「マズイよっ! あの大蛇をなんとかしないと……ボクたちに勝機がないっ!」


「ホノカさん、ボクに任せて! ボクが魔法を使うよ。魔法であの大蛇をやっつける! いくよ、バロンくん! ランダム魔法!!」


 ヨウスケのマジックポイントが0になる。

 杖の上に文字が浮かび上がる。


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