第31話 第4階層 ダンジョンのボス その2


「これで終わりだ!」


 デュラハンは大剣をハヤトめがけて振り下ろす。


「ハヤト先輩っ!!」


 ホノカが悲痛な叫び声をあげる。


 ドゴォォォォォーン!!


 轟音が広場一面に鳴り響く。


「しゅ……しゅごい……これがダンジョンのボス! こんな太くて固い攻撃受けたことないわっ!!」


 レナは頬を紅潮させ恍惚としながらデュラハンの攻撃を受け止める。

 レナのブラウスとスカートは木っ端みじんになって宙にヒラヒラ浮いている。


「俺の本気の一撃を受け止めただと!? 貴様、何者だ!!」


 驚きを隠せないデュラハン。


「私は盾の騎士・レナよ! 防御の要! さあ、どんどん私を攻撃してきなさい!!」


 レナは嬉々として答える。


「なっ……なんで貴様は嬉しそうなんだっ!?」


 たじろぐデュラハン。


「隙あり!」


 ハヤトはデュラハンの左腕を切りつける。


 デュラハンの甲冑に傷ができる。

 ライフが80になる。

 デュラハンは後ろに飛び退いてハヤトたちから距離をとる。


「くっ……さすがだ。この階層まで来ただけのことはある。ならば俺もスキルを使わせてもらうぞ! スキル・斬撃波!!」


 漆黒のエネルギーがデュラハンの大剣に集まる。

 デュラハンはハヤトに向かって大剣を振り抜く。

 漆黒のエネルギーが放たれる。


「ハヤト、私の後ろに隠れて!」


 レナはハヤトの前に立つ。


 斬撃波がレナの盾に激突する。


「すっ、凄い衝撃っ!!」


 レナは後ずさる。

 ライフが95になる。

 しかし、レナの瞳は輝いている。


「まだまだっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 デュラハンは斬撃波を連続で打ち続ける。


 斬撃波を防ぐたびにレナのライフは減り、どんどん後ろに押されていく。


「一発必中!」


 ホノカはデュラハンに向かって矢を射る。


「無駄!!」


 デュラハンは向かってくる矢に斬撃波を打ち込む。


 矢は粉々に砕け散る。


「貴様らも消えろ!」


 デュラハンはホノカたちにも斬撃波を打ち込む。


 ホノカたちもレナの後ろに隠れる。


「くそっ! これじゃこっちから攻撃できない……斬撃波のあのスピードと攻撃回数! 近づく前にやられちまう……」


 歯ぎしりするハヤト。


「ゆっくりしてられないわよっ! 私のライフはどんどん削られてるっ!!」


 レナは斬撃波を受け止めながら息をきらす。

 額からは大粒の汗が流れ続けている。

 レナのライフは残り60。


「ボクが魔法を使うよ! この状況を打開できるのは魔法しかない……いくよ、バロンくん! ランダム魔法!!」


 ヨウスケのマジックポイントが40になる。

 杖の上に文字が浮かび上がる。


『魔法:ホーリー・シールド』

『発動条件:パーティからランダムに対象者が選ばれる。その対象者の最近のプライベートが再現される』


「さっきと同じ発動条件だ! みんな、覚悟を決めて! いくよ!! 2年B組 飯田 陽介、誰かのプライベートを暴露します!!」


 ヨウスケは叫ぶ。


 床に魔法陣が浮かび上がる。

 そこから私服姿のレナが現れた。

 ミニスカートを履き、手には何故か火の着いたロウソクを持っている。


「わたしは盾の騎士……どんな攻撃も耐えてみせる! こ、これはみんなのためにするの! 決して、興味があるとかじゃないんだからねっ!! ハァハァ……」


 再現されたレナは恍惚とした表情でロウソクを見つめる。

 ゆっくりとロウソクを傾ける。

 溶けたロウはレナの太ももに滴り落ちる。


「んんっ! あぁ……ハァハァ……」


 再現されたレナは身もだえる。


「こ、こんなことじゃ私は屈しない! ダンジョンでドラゴンの炎に焼かれるかもしれない! そのときみんなを守れるのは私だけよっ! もっと、もっとよ! もっと強くならないとっ!!」


 再現されたレナは太ももにロウを垂らし続ける。

 ロウが太ももに垂れるたびにレナは声を漏らす。


「えっ……ええ~~~なにこれ……」


 ヨウスケは困った顔をレナに向ける。


「かかか、勘違いしないでよねっ!! わ……私は暑さに弱いから、熱耐性をつけようと努力してただけなのっ!!」


 レナは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 ちょっと涙目だ。


「えっ、あ……うん。なんかその……ごめんね」


「なんでヨウスケが謝るのよ! 熱耐性の特訓だって言ってんでしょっ!!」


 レナはヨウスケの両肩をつかんでガクガクと揺らす。


「炎の妖精・イフリートが出てきたらあんたどうするの!? ドラゴンができてきたらどうするのっ!? 閻魔えんま大王が地獄の業火で攻撃してくるかもれないでしょっ!?」


「わっ、わかったから、落ち着いてよっ!」


「わ、わわ、私はいたって冷静よ! あんたこそ落ち着きなさい! あんたなんてドラゴンの炎で髪の毛がチリチリになればいいのよっ! このエビチリ頭っ!!」


「ボクの頭は海鮮じゃないよっ!?」


「言いわけしないで! ……って、信頼の剣がさっきより暗くなってるんですけどっ!?」


 レナは信頼の剣を見つめる。


「レナ殿……ハァハァ……拙者にもロウソクを垂らして欲しいでゴザル……ハァハァ」


「近づくんじゃないわよ、この変態侍っ!!」


「あいたっ!」


 レンタロウの頭にレナの盾がめり込む。

 レンタロウのライフが50になる。


「発動条件クリアだぜぇ! 人様の嗜好に口出しするなんて野暮ってもんよ! いくぜ、ホーリー・シールド!!」


 バロンは叫ぶ。


 ハヤトたちの周りに光の粒が集まってくる。

 光は透明な薄い膜になり、ハヤトたちの全身を包む。


 斬撃波は光る膜に触れた瞬間に煙となって消える。


「これで闇のエネルギーは防御できるぜぇ! でも、物理攻撃は防げねぇから用心するこったぁ!!」


「ありがとう、バロンくん! 助かったよ!!」


 ヨウスケはバロンに話しかける。


「ありがとう、ヨウスケくん。これでデュラハンを攻撃できるわ、この『剣豪列伝』で。剣豪の霊を私たちの体に憑依させれるみたいね」


 リンは古書をペラペラめくる。


「凄いな! 俺の体に憑依させてくれ!」


「残念だけどそれはできないのよ、ハヤトくん。剣を使う職業にしか憑依できないの。つまり……レナさんとゴキブリ侍だけね」


「誰がゴキブリでゴザルかっ!!」


「まあ、でも……最初の実験台にはちょうどいいわね。レンタロウくん、あなたに憑依させるわ」


 リンは感情のこもってない瞳でレンタロウを見つめる。


「ちょっと待て、リン! お前たちの信頼の剣は攻撃力ゼロだぞ! レンタロウに剣豪を憑依させても攻撃できないだろ!?」


 ハヤトはレンタロウが手にしているボロボロな剣を見つめる。


「安心して。憑依が上手くいったらちゃんと攻撃できるわ。私に考えがあるの。憑依が上手くいかなかったら……そのときはこのゴキブリ侍を処分すればいいだけよ」


「言ってることが物騒でゴザルぞ!」


「安心してレンタロウくん。あなたにはまだ一度も使ってないスキル『切腹』があるわ。もしこの憑依で体が大変なことになったら、迷わず『切腹』してちょうだい」


「まったく安心できないでゴザルよ! だんだん心配になってきたでゴザル……」


 オロオロし始めるレンタロウ。


「ご快諾ありがとう。やっぱり危険を伴うことは事前に丁寧な説明が必要よね。憑依が失敗すると体が爆発するなんて誰でも怖いですもの。じゃあいくわよ、レンタロウくん!」


「へっ? なんか今……凄く重要な情報を聞いた気がするでゴザルぞ!?」


「気のせいよ。具現化! 宮本 武蔵みやもと むさし!!」


 リンは『剣豪列伝』を開いた。


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