あまごい
野坏三夜
「一緒に帰りませんか」
雨の日だった。
授業が終わり、部活もなかった放課後、帰ろうとして昇降口に向かっていた。階段の横にある窓を見ると、重い雲が空に広がっていた。雨が降るな、そう思った。朝にニュースを見といてよかった。
丁度、雨が降り始めた。
昇降口に着き、上履きからローファーへと履き替え、傘をスクールバッグから出そうとする。すると、隣から聞き覚えのある声がした。
「雨、降り始めたかー」
この声は
「秋宮先輩……? 」
隣を見ると文芸部の先輩、
「
部活が無いから会えないと思っていた。……嬉しい。自然と頬が緩む。って、やばいやばい、先輩の前なんだって!
「何ひとりで百面相してんだよ笑 」
「え、見てたんですか? 」
「うん」
「何見てるんですかっ! 」
「そんな不味いこと!? 」
「そうですよ! 」
私たちは仲がいい。この距離感も好きだ。だからこそ一年も告白できずにいた。
「しかし、雨だなぁ」
困ったように先輩は言う。
「傘、持ってないんですか? 」
「昨日壊れちゃってさ、買い換えようって思ってたらこのザマよ」
あちゃー
「それは残念ですね」
「だろー。……どうしようかな、駅までは結構あるし、走っていこうにも、これは濡らしたくないしなぁ」
ん? 濡らしたくないもの?
「何か大切なものを持ってるんですか? 」
「ん? ああ。文化祭で売る俺ら《文芸部》の冊子の原稿だよ」
ほっと胸を撫で下ろす。「彼女の」、なんて言葉が出てきちゃ落胆する所だった。
「そういえば、古舘の担当したページ、良かったぞ。部長も褒めてた」
「ほんとですか? 」
入部したての頃はよく先輩に注意されたものだ。それが今や褒められるのだ。成長したな、私。……にしても
「雨、止みそうにありませんね」
「そうだな」
それどころか益々強まってきている。ざーざーと音を立てる雨。
「せ」
「ん? どうした古舘」
「いや、なんでも……」
ない、のか? いや、先輩は困っているんだ。一緒に帰りませんか、くらい良いよね、きっと。
「どうした? 」と首を傾げる先輩。
私は息を吸い込んで
「先輩、私、傘もってるんですよ、……一緒に、帰りませんか……? 」
こう言った。よく言った私! 声が震えながらも、勇気を振り絞って言った。
「…じゃあ、そう、する、か」
少し照れながら先輩は視線をずらして言った。ぱあっと私の瞳が輝いているだろう。
「そういえば明日の部活何やるんですか? 」
「このコピーだよ! 」
「うえぇ、それ大変なやつじゃないですかぁ」
「つべこべ言うな! 平部員! 」
「それは酷くないですか!? 」
「だって、お前は……」
相合傘をしている男女一組、まるで恋人のように、幸せそうだった。
これは雨の日の話。実は両思いの先輩後輩の話。
あまごい 野坏三夜 @NoneOfMyLife007878
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