第3章『新たな生活』

第130話「引っ越し準備と特別な存在」

『――おにいちゃん、いっしょなの!?』


 次の休み、引っ越しの準備をしていると、事情を知ったエマちゃんがとても喜んでいた。

 今住んでいるところだと狭いということで、俺たちは近くの一軒家に引っ越しするのだ。

 もちろん、そこも花音さんが予め用意してくれていたところだ。


 まぁさすがに、一から建てたのではなく、買ったようだけど。


『うん、これからは一緒に暮らせるから、よろしくね』

『んっ!』


 こうして、俺たちは引っ越しの準備を進めていく。

 ネットでかなり拡散されてしまったこともあり、セキュリティ万全なところに早めに移ることになっている。

 エマちゃんも嬉しいようで、俺の手伝いをしてくれていた。


 ちなみに、シャーロットさんは隣の部屋でお母さんや有紗さんと一緒に、引っ越しの準備をしている。

 そして、こっちでは――。


『明人、意外と見つかって困るようなものは置いてないのですね?』


 花音さんが手伝ってくれていた。

 お嬢様にこんなことさせていいのか、と思うけれど、進んで手伝いを買って出てくれたのだ。

 ところで、人の部屋で思春期の少年が隠し持つようなものを、探さないでほしい。


『…………』


 エマちゃんは花音さんにあまり慣れていないのか、テテテッと俺の後ろに隠れてしまう。

 だけど、チラッと顔をのぞかせながら、花音さんを見上げていた。


『エマちゃん、疲れていませんか? ジュースありますよ?』

『んっ……!』


 しかし、ジュースでおびき出されてしまう。

 やっぱり結構単純だよな、この子。


 俺は花音さんから小さなコップを受け取るエマちゃんを眺めながら、そんなことを思う。

 エマちゃんはコップを持つと、テクテクと俺に近づいてきた。

 そして、当たり前のように膝の上に座ってくる。

 この子は、ここが落ち着くのだろう。


『お話には聞いていましたが、本当にとても懐いていますね』

『んっ!』


 花音さんはおそらく俺に言ったのだけど、エマちゃんが元気よく右手を挙げた。

 自分で、懐いているとアピールしてくれているようだ。

 本当にかわいい。


『ふふ、かわいいですね』


 花音さんも同じ感想を抱いたのだろう。

 笑顔でエマちゃんの頭に――って、まずい。


 エマちゃんは家族以外に触られるのを嫌っている。

 俺だけは特別なようだけど、花音さんが手を伸ばしたらはたいちゃうんじゃ――。


 そう思ったけれど、エマちゃんはおとなしく撫でられていた。

 あれ……?


『私が明人のお姉さんだと思っているので、嫌がったりはしないのですよ』


 俺が疑問を抱いていることに気付いたようで、花音さんがニコッと笑みを向けてきた。

 なるほど、どうやら既に懐柔していたようだ。

 隠れながらも花音さんの顔を見ていたりしたのは、俺と繋がりがあるからなのか。


 エマちゃんは家族を特別視しているようだし、俺の家族である花音さんも特別だということなのだろう。

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