第101話「向き合う二人」
「隣に立ちたいって……どういうこと……?」
物理的な意味での隣に立ちたいという意味ではないことはわかる。
しかし、彼女がどういう意味を込めてこんなことを言ったのかはわからなかった。
「明人君が……他の誰かにじゃなく……私に相談してくれるようになりたいです……」
「――っ」
上目遣いに縋るような目を向けられ、俺は思わず息を呑む。
内容を聞かれていたからこうくることは可能性として考えていたけれど、正直彼女の性格的には低いと思っていた。
俺が誤魔化している以上踏み込んでこられない、そういう子だと思っていたのにどうやら俺は思い違いをしていたようだ。
いや、というよりも彼女に変化があったと見るべきか?
今だって普段と様子が違うわけだし……。
多分、これ以上誤魔化すのは俺たちに溝を作るだけだろうな……。
「最初に聞いておきたいんだけど、シャーロットさんはどこまで話を聞いていたの?」
「おそらくほとんど聞いております」
「そっか……じゃあ、俺たちが話してた裏切りということが何かわかるかな?」
「大まかにはなんとなく察しがつきますが……全ては、わからないです……」
その言葉を聞き、俺は一から話すことにした。
小学生の時からサッカーをしていて、中学では世代別日本代表に召集されたことや、公立校でサッカー部に入っていたことなど本当に些細なことを全てだ。
義理の姉の話をした時はなぜか凄くホッとした顔をしていたけれど、もしかしたら俺と理玖の会話で何か不安にさせていたのかもしれない。
申し訳なくなって頭を撫でると、彼女はまた嬉しそうに頭を預けてきた。
そんなふうに彼女のことを甘やかしながら俺は過去を話していく。
そして、中学二年生の時に起きた、全中でのことも話した。
「全国大会の当日、お父さんに無理矢理退部させられた、のですか……?」
俺の話を聞いたシャーロットさんは、若干声を振るわせて聞き返してきた。
「まぁ父親といっても、親権を持ってるだけだけどね。なんだかおかしいとは思っていたんだ。俺と花音さん――その義理のお姉さんなんだけど、俺たちが必要ないことで呼び出されて屋敷を出してもらえなかったんだ。そのせいで、俺は全国大会当日の朝に会場に着く段取りになったんだけど――早朝に出ようとした俺は、そこでその人から退部のことを告げられた」
「どうして、そんなことを……」
「理由については誰にも話していないんだけど――対戦校だったチームに、大事な取引先の御曹司がいたらしい。だから、当時司令塔だった俺は売られたんだよ」
「酷い……。そんなことが許されるのですか……?」
シャーロットさんは怒って顔をしかめてしまう。
優しい彼女にしては珍しい表情だ。
そんな彼女に対し、俺は呆れたような笑顔で返事をした。
「許されるよ」
「えっ……?」
「だって、そんな取引があった証拠なんてどこにも残されていないんだからさ」
俺の言葉を聞いて、シャーロットさんは悲しそうに目を伏せる。
そして、優しく俺の頬を撫でてきた。
「やはり、手は回されていたというわけですね。しかし……それで皆さん、混乱してしまったのですね……。明人君がいらっしゃらなかったから……」
「実はね、それだけじゃないんだよ」
「えっ……?」
「あの時、いなかったのは司令塔の俺だけじゃなくて、監督もなんだ」
「えっと、監督さんにも手を回していたってことですか? でも、身内の明人君ならともかく、そんな他人になんて……」
「監督も身内だったら話は別だよね?」
「どういうことですか……?」
シャーロットさんは不思議そうに首を傾げる。
まぁこれだけだとわかるわけがないのだが。
そもそも、俺とシャーロットさんでは思い浮かべている監督像が違うだろうし。
「これはチームメイトしか知らないことなんだけど、俺たちの実際の監督はマネージャーの花音さんだったんだよ」
「……あの、明人君……もうさっきからツッコみたいことが山積みで、正直どこからツッコんでいいのか困っております……」
「えっと、ごめん……? でも、本当のことなんだ。あの人、なんだか裏で動いて策を巡らせるのが好きで、表上は先生を監督として発表していたんだけど、実際は花音さんが指示を出していたんだよ」
まぁ指示を出すと言っても、ベンチであの人が指示を出すことはなかったけどな。
やっていたことといえば、選手を交代したい時に先生に伝えていたくらいだ。
後は全て試合前のミーティングで指示をしており、試合中の流れなどによりプランに修正が必要となれば俺が指示するという形でチームは成り立っていた。
だから問題が起きたあの試合では、司令塔の俺どころか監督すらいなかったことになる。
それで優勝候補筆頭のチーム――昨年の優勝校であり、主力メンバーがほとんど残るチームと戦ったのだから正直試合にすらなっていなかった。
その試合で彰は大怪我を負い、大敗で自信をなくした選手はサッカーをやめ、そして司令塔が抜けてエースストライカーが長期治療に入ったチームを見限り、多くのメンバーがユースへと変わっていった。
まぁそれはも仕方がない。
実際ユースですぐにでも主力に入れるくらい実力があるメンバーだったのだから。
あのチームは元々私立ではなかったから集められたメンバーじゃなかったけれど、小学生時代からの知り合いで俺や彰とサッカーをしたいと言って引っ越しまでしてきた奴が多かった。
その際に花音さんが手を貸していたようだけれど、それでも普通引っ越しをしてまで一緒のチームでやろうなんて考えないだろう。
そこまでして一緒のチームでやろうとしてくれた才能ある奴等を、俺は裏切ってしまった。
本当に申し訳ない事をしたと今でも思っている。
「でも、そのような理由があったのなら、皆さんは明人君を責めたりしなかったんじゃ……」
「いや、中学生って自分たちが思っている以上に子供でさ。誰かのせいにしたくなるもんなんだよ。だから、感情的になっていたみんなは俺を責めてきたし――俺だって、花音さんを責めてしまったんだ」
そのせいで、今では俺と花音さんに大きな溝が生まれてしまっている。
順番に話していたとはいえ、一つだけシャーロットさんが勘違いしていることがあった。
それは、俺が花音さんと姉弟になったのは幼い頃ではなく、全国大会を控えた一週間前だったということだ。
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