第37話「かまってほしいのです」

 ――青柳君の笑顔、素敵ですね……。


 私がお作りしたお料理を食べている青柳君のお顔を眺めながら、私は一人そんな事を考えておりました。

 青柳君は今お膝の上に座っているエマにご飯を食べさせながら、ゆっくりとご自身もお食べになっておられます。


 その際にエマが料理を口に含んで幸せそうな笑みを浮かべると、青柳君はとても優しい笑みを浮かべてエマの事を見つめられるのです。

 青柳君が浮かべられるその笑顔を私はとても素敵だと思いました。


 彼は頭がよくて性格も優しく、そして困った時にはとても頼りになる御方です。

 まるで私が理想とする男性像を絵に描いたような御方ではないでしょうか。

 こんなにも素敵な御方に出会わせて頂けた事を、神様に感謝しないといけません。


 ――とまぁそんな事を思い浮かべている私なのですが、今凄く困っている事があるのです。


 実は……昨日先輩方から庇って頂いた時以来、青柳君と目を合わせる事が出来なくなってしまいました……。

 目が合うと、鼓動が異常に高鳴って全身が熱くなります。

 そしてとてつもなく恥ずかしくなってきて、気が付けば目を背けてしまっているのです。


 それだけではございません。

 もっとたくさん青柳君とお話しをしたい事がありますのに、彼の前に立つと緊張して言葉が出なくなります。

 正直に申し上げますと、青柳君の前に行くのが恥ずかしくて躊躇してしまうようになりました。


 ですがそう思っているはずなのに、彼と離れてしまうと途端に寂しくなってきてしまいます。

 早く彼のお顔が見たい――そんな欲望に駆られてしまって、今日なんて朝からお部屋に押しかけてしまいました。


 会って数日しか経っていない男の子相手に、私はいったい何をしているのでしょうか……。


 今までこんな気持ちになった事がなかったので、ずっと戸惑っています。

 青柳君に変に思われていなければいいのですが……。


 彼が私の事をどのように思っているのか気になった私は、チラッと青柳君のお顔を拝見します。

 ですが青柳君は私の事なんて気にしていないようで、幸せそうな笑みを浮かべてエマの頭を優しく撫でていました。


 ………………少しくらい、私にかまってくださってもいいのに。


 思わずそんな言葉が頭を過ってしまいました。

 青柳君はいつもエマばかりかわいがってます。


 いえ、確かにエマはかわいいです。

 世界で一番かわいいと言っても過言ではないくらい、とてもかわいい妹です。


 ですから青柳君がエマをかわいがっている気持ちはよくわかるのですよ?

 何より、私自身彼にそうなって頂きたいと思っておりましたのですし……。


 エマは、お父さんのぬくもりを知りません。

 そのせいもあってエマは、青柳君をお父さんの代わりに思っているところもあると思うのです。

 青柳君がお若いのでお兄ちゃんと呼んではいますが、エマの甘え方がお父さんに甘える子供のような感じですからね。


 二人が仲良くなってくださる事はとても喜ばしい事です。

 ですが――青柳君。

 やっぱり私もかまってほしいのです……。


 エマの事ばかりかわいがる青柳君の笑顔を横目に、私は小さく頬を膨らませるのでした。

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