第4話「迷子になっている外国人の女の子」

『わぁあああああん! ロッティーどこぉおおおおお!』


 急に子供の泣き声が聞こえてきたかと思うと、道の角を曲がった先に小さな女の子がいた。

 見た感じだと、四、五歳くらいだろう。

 聞こえてきた言葉から察するに、誰かとはぐれてしまったようだ。


 幼い子供が泣いているというのに周りの大人たちは戸惑った表情を浮かべるだけで誰も声をかけようとはしない。

 距離を少し開けて、心配そうに泣いている女の子を見つめている。

 どうして声をかけないのかは、女の子の見た目と叫んでいる言葉からわかった。


 日本では珍しい銀色の髪。

 そしてこの子が先程叫んだ言葉は――英語だ。

 まず間違いなく外国人なのだろう。

 みんな英語が話せないから助けたくても声がかけられないといった感じなのだと思う。


 ……仕方ないな。


 さすがにこのまま見過ごすわけにはいかない。

 英語が出来る人が通りかかるのを期待してもいいが、その間この子に辛い思いをさせる事になる。

 約束には遅れてしまうかもしれないけど、亜紀には後で事情を説明しよう。


『どうかしたの? 誰かとはぐれてしまったのかな?』


 俺は女の子の目の前まで行くと、腰をかがめて目線を女の子の高さに合わせて話しかけた。

 女の子は一瞬ビクッとした後、ゆっくりと俺の顔をウルウルとした瞳で見つめてきた。


『だれ……?』

『僕は明人だよ。君の名前は?』

『エマ……』

『エマちゃんって言うんだね。えっと、ロッティーさんとは何処ではぐれたのかな?』

『ロッティー、いないの』

『あぁ、うん、いないね。何処らへんでロッティーさんはいなくなったの?』

『いない……。わぁあああああん!』


 質問をしていると、エマちゃんがまた泣きだしてしまった。

 どうして泣きだしたのかがわからない。

 相手が幼いだけに、言葉が上手く通じてない気がする。

 ロッティーさんという人がこの辺にいない事はわかっているため、何処らへんでいなくなったのかを知りたいのだが……。


 とりあえず泣きやませないとまずい。

 俺が話し掛けてまた泣きだしたせいで、周りから怪訝な表情で見られてしまっている。

 英語で会話をしていたから俺が何を言っていたのかもわかっていないようだ。


 ――どうする?

 どうすればこの子は泣きやむ?


 お菓子は――生憎、滅多に食べないため持ち合わせていない。

 当然、子供が喜びそうなおもちゃも持っていない。


 他には――あっ、スマホがある。

 前に電車の中で、泣いている子供にスマホを渡して泣きやませているお母さんを見た事があったな。

 あの時は確か動画を見せていたはずだ。


 この子が喜びそうな動画は――これだ!


『エマちゃん、これ見てごらん』


 有名な動画サイトを開いてすぐ目についた動画を選び、俺はエマちゃんにスマホを渡した。

 エマちゃんはチラッと俺の顔を見た後、スマホの画面に視線を向ける。

 そしてスマホに映ってる動画を見た瞬間、パアッと表情が明るくなった。


『ねこちゃん……!』

『エマちゃんは猫が好き?』

『うん! エマね、ねこちゃんだいすき!』


 先程まで泣いていたのが嘘だったかのように動画に釘付けになるエマちゃん。

 もう大丈夫そうなため、俺はホッと息をはいた。


 とりあえず少しの間はこれで大丈夫そうだ。

 エマちゃんが猫に夢中になっている間にロッティ―さんを探したいところだが……手掛かりは、零なんだよな。


 交番に連れて行くのが一番だとは思うけど、警察官が英語を話せなかった場合この子が心細い思いをするかもしれない。

 まだ幼いだけに、そういう状況は避けたいところだ。


 やっぱり俺が見つけるしかないよな……。

 手掛かりは何もないが――この子、誰かに似ていないか……?


 エマちゃんの銀色に輝く髪。

 整ったかわいらしい顔立ちは――そう、今日俺のクラスに来た、シャーロットさんにそっくりだ。

 それに確か、シャーロットの愛称ってロッティーじゃなかったかな?

 前に読んだ小説で確かそんな事を書いていた気がする。

 エマちゃんは外国人だから姉の事を愛称で呼んでいる可能性は十分にあるし、お母さんなら愛称や名前ではなくちゃんとマムと呼ぶだろう。


 今日の発言からシャーロットさんに妹がいる事も確かだ。

 となると――。


『エマちゃん。エマちゃんの名前全て言えるかな?』

『んっ……? エマは、エマ・ベネットだよ?』


 猫の動画に夢中になっていたエマちゃんが、顔を上げてキョトンとした表情で教えてくれた。

 その際に小首を傾けたのだけど、とてもかわいい仕草だった。

 見た目も相まってかわらしい生き物にしか見えない。


 まぁそれはそうと、どうやら俺の読みは合っていたようだ。


 エマちゃんが探している相手が誰か見当がついた俺は、一度学校に戻る事にするのだった。





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あとがき


リメイク版になりますが、楽しんで頂ける作品にしますのでどうぞよろしくお願い致します!

中盤から大きく変わっていきます(*´▽`*)


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