第2話「クラスのために」
「明人の裏切り者」
ホームルームが終わってすぐ、ふてくされた彰が俺へと文句を言ってきた。
結局彰は職員室への呼び出しを見逃してもらえなかったのだ。
それどころか、美優先生が気にしている婚期の事を口走ってしまい更に怒られていた。
もうなんというか、憐れでアホだと思ってしまう。
「いや、まぁ、どんまい」
なんて言ったらいいのかもわからず、とりあえず慰めておいた。
若干俺のせいでもあるから可哀想だとは思うけど、美優先生を本気で怒らせたのは彰が悪いため自業自得だとも思ってしまう。
「それよりもいいのか? シャーロットさんを囲む輪に加わらなくて」
このままほっておくと次の授業が始まるまで延々と文句を言ってきかねないため、ちょっと卑怯ではあるがシャーロットさんを餌にさせてもらった。
「あっ、こんな事してる場合じゃなかった! うかうかしていると他の奴等にシャーロットさんを盗られちゃうじゃねぇか!」
俺の言葉によってシャーロットさんの事を思い出した彰は、すぐさま席を立ってシャーロットさんの元へと向かう。
本当に単純な奴だ。
でも、それが彰のいいところでもある。
俺は彰が向かった方向――というよりも、シャーロットさんに視線を向けた。
シャーロットさんは実に楽しそうにクラスメイトたちと話をしている。
歳が俺たちと同じなのにもかかわらず、外国人の彼女がとても流暢に日本語を話せているのは凄いと思った。
逆の立場で考えると、あそこまで流暢に英語を喋れるかと聞かれれば俺は頷く事が出来ないかもしれない。
彼女は非の打ちどころがないんじゃないだろうか?
完璧美少女とはシャーロットさんのような存在をいうんだろうな。
――美少女留学生と同じクラスになれたからといって、何かを期待するほど俺は楽観的にはなれない。
勉強しか取り柄のない俺は、こうして遠くから彼女を眺めているのがお似合いなのだ。
ある程度シャーロットさんを眺めて満足した俺は、鞄から一冊の本を取り出して次の授業が始まるまで読書にふけるのだった。
◆
「シャーロットさん、この後みんなで遊びに行かない?」
「遊びに、ですか?」
「そうそう、カラオケとか行って、シャーロットさんの歓迎会をしようと思ってるの!」
帰りのホームルームが終わってすぐ、またもやクラスメイトたちがシャーロットさんを囲み始める。
よく見れば、クラスメイトだけじゃなく他のクラスの奴等もいるようだ。
噂を聞いてシャーロットさんを見に来たのだろうか?
それにしても、ホームルームが終わってすぐにいるということはどれだけ急いできたんだろう?
おそらく廊下などを全力ダッシュしているはずだが、後で先生に怒られなければいいけどな。
「あっ、ごめんなさい。家で妹が待っていますから……」
早く家に帰らないといけないのか、シャーロットさんは凄く申し訳なさそうにクラスメイトたちの誘いを断った。
それによってクラスメイトたちは残念そうな顔をするが、無理に誘う事はよくないと理解しているようで誰も強引に誘おうとはしない。
――ただ一人を除いては。
「だったらさ、妹さんも連れてきなよ! 俺たちは構わないからさ!」
一人空気を読めていない彰が、シャーロットさんにどうにか歓迎会にこれないか聞き始めた。
本人は一切悪気がないのだろうけど、シャーロットさんは困った表情を浮かべてしまっている。
しかも彰が先陣をきってしまったせいで他の奴等までまた誘い始めてしまった。
………………仕方ない、か。
このままでは収拾がつかなくなり、早く帰りたいと思っているシャーロットさんがいつまで経っても帰れなくなる。
それがわかった俺は椅子から腰を上げた。
「――彰、ストップ。それにみんなも。来週からテストが始まるのに、そんなことをしている暇はないだろ?」
俺はシャーロットさんに気を遣わせないよう、もっともらしい理由をつけてクラスメイトたちにストップをかける。
多少悪者になるのは仕方がない。
まぁこれだけだと余計にめんどくさくなることもわかっていたので、俺は彰にだけアイコンタクトをした。
「青柳君さいてー。クラスメイトの歓迎会をするのは当然でしょ? そんなに勉強が大切なの?」
「お前本当空気読めないよな。クラス一致で歓迎会しようってなってるんだから別にいいだろ」
口々に、クラスメイトが俺へと文句を言ってくる。
皆が望む答えに反した事を言えば批判されてしまう、それが集団の心理だ。
だけど、わかっていてやった事だから大して痛くはない。
元々彰以外とは折り合いが悪いんだし、気にする必要もないんだ。
だが、このまま好き放題言わせておくと騒ぎが大きくなるだろう。
収める方向に向けたいが、この場を収める事は俺には無理だ。
その役目を担ってくれるのは一人しかいない。
「わりぃ、俺が悪かった! そうだよな、もうすぐテストがあるんだし、テストが終わってから歓迎会をしたほうがいいに決まってる!」
パンッと両手を合わせて大声を張ったのは、先程先陣をきってしまった彰だった。
彰は申し訳なさそう表情でシャーロットさんを始めとしたみんなに頭を下げている。
「え~、西園寺君までテストの事を優先するの?」
当然、クラスメイトからは不満の声が上がった。
しかし、彰はそんなことで動じるような奴ではない。
「いや、さ。
「まぁ、そうだけど……」
「確かにな……」
説得するように両手を広げて話した彰の言葉に、段々とみんなが納得をし始める。
お調子者で、クラスのムードメーカーが言った言葉だからこそみんな同調するのだろう。
俺が言っていたとしたらこうはいかなかったはずだ。
だからこそ、こういう役目は彰に任せたほうがいい。
まぁ彰が言うと悪いほうにもみんなは乗ってしまうから、変な方向に行かないよう注意が必要なのが少々難儀だが……。
――俺のクラスでの立ち位置は、お調子者の彰が悪い方向に突っ走らないように止めるストッパー役みたいなものだ。
そのせいでよく嫌われ役を買ってしまうのだが、俺は特に気にしていない。
何か問題を起こしてクラスや彰の評価が下がるより、俺が周りから文句を言われたほうが断然マシだと思っているからだ。
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