再会した彼女と夜桜の下で……

久野真一

第1話 最近話してない幼馴染が気になってラインしてみた

 京都きょうとの我が家にて、のんびりと過ごしている、三月のとある日。

 ふと、唐突に、思ったことがあった。


由香子ゆかこ、どうしとるんやろ?」


 氏名は進藤由香子しんどうゆかこ

 幼馴染グループの一人で、最近、あんまり反応しない女性。

 

(なんか、距離取ってるんやろか)


 幼馴染のグループラインは「三原組みはらぐみ」と言う暴力団のような名前がついていて、同じ三原小学校みはらしょうがっこうで育った中で気が合う連中でノリで作ったものだ。


 由香子は細めの体格で、なんだか眠そうな目と控えめな性格が特徴の子だ。俺も含めて、大阪の幼馴染連中は全般的に騒がしいのが多い。ノリについていけなくなったのでは、とふと、そんな事が気になって、気がついたら


【由香子さ、最近、ほとんど話しとらんよな。なんかあったりした?】


 なんてメッセージを送っていた。それから約三時間後、返事はあっさり。


【別になんもないよー。和真かずまの発言は内心ツッコミ入れとるけど】


 (ツッコミは入れてるのか)と心の中でボソっと思った。

 俺、結城和真ゆうきかずまは仲間内では、和真と呼ばれる事が多い。

 しかし、そういえば、由香子と二人で話したことはあまり無い事に気がつく。

 小学校の頃も輪に混じって遊んだ記憶が主だ。

 成人してからも、幼馴染グループの一人という認識だった。


 (サシでちょい話してもええかもな)


【そういや、俺ら、一対一であんま飲んどらんよな。今度どうや?】


 気がついたら、深く考えずに、適当にメッセージを打ち込んでいた。


【ええよー。今週末とかどう?】


 はやっ。しかし、今週末って、今日が金曜だから、明日?


【今週末って土曜日でええんか?俺はオッケーやけど】

【そうそう。大阪駅おおさかえき御堂筋口みどうすじぐち改札待ち合わせでどう?】


 彼女の言う大阪駅は、大阪の中心であるJR大阪駅おおさかえきから、地下鉄の路線である御堂筋みどうすじ線につながる辺りの改札の事だろう。元大阪民として、ぱっと思い浮かぶ辺り業が深い。


【ところで、どこで飲むんや?大阪、だいぶ久しぶりなんやけど】


 俺は、この三月、第二の故郷である京都に戻ってきたばかり。ちなみに、第一の故郷は今でも大阪だと思っている。勤め先は東京で、企業所属の研究者をやっているのだが、昨今流行りのテレワークがメインになり、別に住所は東京でなくともOKということになったのだ。うちの会社ってフリーダム過ぎないか、と思うのだけど、そのおかげで気楽にやらせてもらっているのだから、感謝感謝。


【めっちゃ美味いベルギービールの店なんよ】

【ええな。じゃ、それで】


 大体において、幼馴染グループの奴は、ラインでは淡白だ。

 彼女もその例に漏れない。

 しかし、それで伝わると思ってるし、実際、伝わる。


 ところで、決まってから、ふと、気づいてしまった。

 

(これって、デートなのでは?)


 しかし、一瞬だけ考えて、ないない、と思い直した。

 前に皆で集まった時に、


「由香子は誰かいい人おらんのか?可愛いし、告白もそこそこあるやろ」


 と弄ったことがあるのだが、


「んー。私の事好きって言ってくれた人は何人かおるんやけどね。あんまお付き合いとかよーわからんし、断っとるかな」


 とあっさりしたものだった。その事を聞いたときは、人のことは言えないが、

 由香子も浮世離れしていると思ったものだ。考えてみると、小学校時代もだいたい

 どこか変な奴だったし。女子なのに、男子と一緒にダンゴムシを集めて喜んでいるような感性だった。


(ま、この機会に交友を深めるのもええもんやろ)


 と、俺も深く考えずに、明日を楽しみにすることにした。

 思えば、長い付き合いとは言え、社会人になって数年の大人が二人で会うのだ。

 両方とも独り身なのに、何の気なしに会うのだろう、というのは素朴過ぎた。


(デートじゃないとはいえ、一応、女子と二人で会うわけやしな。服とかどうしよ)


 クローゼットを眺めながら、少し考える。


(多少大人ぽい感じのコーディネイトで行くか)

 

 それだけ決めて、さて、明日は何か面白い話でも聞けるかな、とそんな気分で床についたのだった。


(あいつは今、どんな想いを抱えて生きてるんやろな)


 ベッドに寝っ転がりながら、考える。

 建築模型作りに携わる仕事をしているという彼女。

 新しいビル等を建てる前に、完成予想図をミニチュアとして作って、発注者に納品する仕事、らしい。

 建築業界というのも大変だと言うし、苦労話もあるかもしれない。

 思えば、昔から建物が好きな奴だったから、適職なんだろう。


(しかし、俺も俺で大概やな)


 デートでないと言い聞かせようとするものの、正直、由香子は美人……というか可愛い。男として、楽しみでないと言えば嘘になる。


 デートであろうがなかろうが、いい思い出にはなるだろう。

 繰り返すが、この時の俺はあまりにアンポンタンであった。

 返事も淡白だったし、適当に話して終わりだと思っていたのだった。


 あ、一言くらい添えとくか。


【明日、楽しみにしとるよ。酒飲みながら、適当に話そうや】

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