可愛い彼女と夏祭り

第15話

 夏休みが始まると、直ぐにやってくるのは夏祭りだ。

 七月の終わりに行われる夏祭りには多くの人々が集まり、その中でも多く見られるのは間違いなくカップルだ。

 とは言っても最後に祭りに行ったのは二年ほど前の事だけど。

 アパートからも小さく花火は見えるし人混みが凄いだろうから行かなかった。

 だけど今年は陽愛と、彼女と行くことになった。

 

「も~、本当に訳わかんない!」


 俺のアパートに置いてある小さな机に突っ伏してそういうのは陽愛だ。

 夏休みに入ると楽しいイベントは沢山あるが、その分学校からの課題も大量に出る。

 陽愛はたった今その課題をやっている。

 

「もう分からない! 答え、答え~」


 そう言って答えを見ようとする陽愛の手を掴んで阻止する。


「ダメ」

「むぅ~」

「膨れてもダメなものはダメだ」


 正直この可愛さなら許してしまうかもしれないが、それはどうしてもできない。

 陽愛が今やっている課題は英語だ。

 陽愛は勉強ができない方ではないが、英語を除いた科目のみだ。

 陽愛は英語が唯一の苦手科目なのだ。


「ちょっと休憩しようよ~」

「まだ課題やり始めてから一時間も経ってないけど……」

「休みの日に一時間以上続けて勉強するとかむりぃ~」

 

 そう言って陽愛は立ち上がり、俺のベッドへとダイブした。

 

「蒼汰も休憩しようよ~。今なら添い寝してあげても良いよ?」


 悪戯っぽく笑う陽愛に、俺は一枚のプリントを見せた。

 

「ちょ、ちょっと! 今それを見せないでよ~!」


 俺が陽愛に見せたプリントには夏休みの課題の一覧が書かれている。陽愛が既に終わらせた課題には赤ペンで罰が書かれているが、それはたったの一つしか書かれていない。それも凄く簡単に終わらせられる数学のプリント一枚。

 夏休みが始まって一週間が経ったが、陽愛はプリント一枚しか終わっていない。

 

「このままだとまた夏休み最終日近くにやることになるぞ」

「こ、今回はちゃんと計画的にやるもん!」

「それを今まで何回聞いたことか」


 俺がそう言うと陽愛は「うぅ~」と言って枕に顔をうずめた。

 そして足をバタつかせながら「うるさい、うるさい!」と言ってきた。


「あー、もう分かったよ。少し休憩したらまた始めるぞ」


 俺がここまで陽愛に課題を早く終わらせようとしているのは、これからの夏休みの予定が関係している。

 今までは陽愛も友達とどこかに遊びに行ったりすることは少なかったらしい。それで夏休み最終日近くまで課題を終わらせられずにいた。

 けれど今年は違う。夏祭りに行ったり海にも行く予定がある。その他にも陽愛は沢山俺と行きたい場所があると言ってきた。今までよりも出掛ける日数が明らかに増えるであろうに、毎年と同じペースで課題を進めていたら間違いなく間に合わない。

 だから俺は陽愛にここまでして課題を進めさせようとしている。

 

「はーい!」


 ベッドに寝転がっている陽愛は上半身だけ起き上がり、笑顔でそう返事をした。

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