第10話

「え⁉ ちょ⁉」


 俺は通話終了と表示されているスマホの画面を見つめながらパニックになっていた。

 急に通話を切られた。

 そんなことあるか? だってさっきまで楽しく陽愛と話していたはずなのに。

 もしかしたら陽愛が間違えて通話終了の箇所を押してしまったのか?

 

「どうしよう。かけ直した方が良いのか?」


 もし陽愛が俺が思っている通りに間違えて通話を終了したのなら俺がもう一度かけるか、陽愛からまた直ぐにかかってくるはずだ。

 でも、中々かかってこない。

 

「もしかして、俺、陽愛の事怒らせた?」


 俺は通話が終了する直前に陽愛が言った言葉を思い出す。


『う、うるさい! 蒼汰のバカ、バーカ!』


「…………陽愛、怒ってないよ、な…………?」


 陽愛なら冗談でバカと言ってくるときはそう少なくない。

 でも、いきなり通話を切られては怒っていると思ってしまう。

 俺は陽愛と幼馴染なだけあって、陽愛の事は他の人よりは知っているつもりだ。

 そんな俺は陽愛が怒ったところをあまり見たことがない。


「どうするべきだ。もう一度かけ直すのが賢明な判断なのか?」


 俺は陽愛と表示されたスマホの画面を見つめながら頭を回転させる。

 もし陽愛が間違えて通話を切っているとすれば、既にもう一度通話がかかってくるはずだ。でも、かかってきていない。

 という事は、陽愛は怒っている可能性が高い。

 そうとなれば俺がすることはなんだ? 

 勿論謝ることだ。

 

「通話で謝るべきか、文章で謝るべきか……明日直接謝るべきか……」


 文章で謝ったら余計に怒らせてしまうかもしれない。

 かといって今から通話をかけても出てもらえるか分からない。

 明日直接謝ろうとしても口を聞いてもらえるかすら分からない。

 

「どうしよう……」 


 考えた結果、俺は今から陽愛に通話をかけることにした。

 もしかしたら出てくれるかもしれないし、謝るなら早い方が良いに決まってる。 

 俺は緊張しながら陽愛に通話をかける。


「も、もしもし。蒼汰」


 俺が陽愛に通話をかけると、陽愛は案外直ぐにでてくれた。

 

「陽愛。ご、ごめん!」


 俺は直ぐに謝った。

 何をしてしまったかは分からないけど、俺が何かしたから陽愛は怒っているのだろう。


「俺が何か変な事言ったんだよね。ごめん!」


 俺はもう一度謝る。

 

「ちょ、ちょっと蒼汰。何で謝ってるの?」

「へ?」


 予想もしていなかった陽愛の言葉に、俺はつい変な声を出してしまった。

 陽愛、今何て言った?

 何で謝ってるのって言ったのか?


「だから、どうして蒼汰は謝ってるの?」

「どうしてって、陽愛怒ってるんだろ?」

「なんで私が怒ってるの?」

「え? 怒ってないのか?」

「逆になんで私が怒らないといけないの?」


 陽愛の声を聴く限り、本当に怒ってはなさそうだ。


「だって、陽愛。急に通話切るし、その前にうるさいとかバカとか言ってきたから」

「あ、あれは……私が間違えて終了を押しちゃったの。ごめんなさい」

「じゃ、じゃあどうして直ぐにかけ直してくれなかったんだよ」


 間違えて押してしまったのなら直ぐにかけ直すはずだ。

 

「だ、だって。急に切って蒼汰怒ってないかなって思って」

「そ、そんな事で怒るわけないだろ」

「ふ、ふん! 蒼汰がもっと早くかけてきてくれていれば良かったの! 蒼汰のバーカ!」

「あ、またバカって言いやがった!」


 この後、俺と陽愛は一時間楽しく通話を続けた。

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