第8話

 夜の八時五十八分。

 俺はベッドに座りスマホを握りながら壁掛け時計を見つめている。

 陽愛と約束した時間、九時まで残り二分。

 陽愛からの着信を今か今かとかれこれ三十分近く待っている。

 そんな前から待っていても電話がかかってくるのは九時くらいなのは分かっている。分かっているが、どうしても時計を見て待ってしまう。

 そんな時、俺のスマホが振動を始めた。

 俺は直ぐにスマホに目をやる。

 スマホには陽愛と表示されている。


「もしもし、蒼汰」


 スマホをタップして耳に当てると、可愛らしい声で俺の名前が呼ばれた。


「も、もしもし」

「久しぶりだね、こうして通話するの」

「そうだね、でも何で急に通話なんて」


 今まで陽愛と連絡は取り合っていたが、こうして通話は何故か全くしてこなかった。


「何でって、ただ蒼汰の声が聞きたかっただけだけど、ダメなの?」

「だ、ダメじゃないよ」

 

 俺の声を聴きたいなんて言われたのは初めてだ。

 そんなこと言ってくれるのは陽愛だけだ。


「ねぇ、聞いてよ蒼汰~。今日またお母さんに揶揄われたの」

「いつも揶揄われてるね。今日は何て揶揄われたの?」


 今日陽愛の家に行った時も陽愛はお母さんに揶揄われていた。


「蒼汰が帰った後に、お母さんが蒼汰夕飯も食べて行けばよかったのにって言って、その次に陽愛も蒼汰ともっと一緒に居たかったでしょ? って言われたの。確かにもっと一緒に居たかったけど……」

「……本当に俺と陽愛が付き合っていること、言ってないんだよね?」

「い、言ってないよ! そんな嘘つかないもん」

「そ、そっか。でも多分陽愛のお母さんなら気づいてるかも……」

「え、え! そんなに私って分かりやすいの⁉」


 分かりやすいか分かりやすくないかと言われれば分かりやすい方だと思う。

 陽愛は責められると凄く分かりやすくなる。

 いつもは俺に攻めてくる陽愛だが、お母さんには責められる。だからお母さんにはバレてしまうのだろう。


「わ、分かりやすいんじゃないかな」

「そ、そうなんだ。だってしょうがないじゃん、蒼汰と付き合えたのが嬉しいんだもん」

「ッ‼」


 陽愛の弱々しくて可愛らしい声が最高に可愛い。

 電話越しだけど陽愛の表情が思い浮かぶ。この声の陽愛は絶対に顔を赤らめて恥ずかしがっている時だ。

 幼馴染の俺には分かる。

 顔を赤らめて恥ずかしがっている陽愛は最高に可愛い。

 通話できているのは嬉しいけど、ビデオ通話にしなかったのを後悔する。


「ば、バレてたらどうしよう……」

「別にバレたらダメってわけじゃないし、どうせいつかはバレちゃうだろうし」

「そ、そうだよね……でも、なんか恥ずかしい……」

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