第2話

 陽愛と付き合うことになって一日が経った。

 陽愛は学校では相変わらずの人気で、陽愛の席の周りには沢山の人が群れている。

 もう見慣れた光景でなんも不思議には思わない。逆に誰も居ない時の方が珍しい。

 そんな大人気な陽愛とは正反対に、俺の目の前には唯一の友達である天野斗真あまの とうましかいない。

 

「本当に陽愛ちゃん人気者だな。お前とは正反対だな」

「うるせぇ」

「まぁ、お前は陽愛ちゃんと幼馴染ってなだけで運を使い果たしてるし、男子からは嫉妬されてるからな」


 陽愛の幼馴染ということもあり、男子からたまに話しかけられたと思ったら、大抵陽愛の好きな異性のタイプなどを聞いてくる。

 勿論、陽愛から好きなタイプなど聞いた事も無いし知らないので知らないとしか答えられなかった。


「確かに蒼汰は羨ましいと思うけど、そこまで嫉妬されるなら俺は幼馴染じゃなくて良いかな」


 確かに陽愛と幼馴染で大変な事もあったが、良い事もあった。

 陽愛と付き合えたことだ。俺が陽愛と幼馴染じゃなかったら、こんなことは絶対にありえなかっただろう。幼馴染だとしてもありえないとは未だに思っている。

 それに、あまりに突然の出来事で驚いたが、今まで好きだった陽愛と付き合えたんだ、こんな幸せな事は他にない。


「幼馴染じゃなくて恋人にならなりたいけどな」


 斗真は陽愛の方を向きながらそう言う。


「冗談だよ、蒼汰が陽愛ちゃんの事を好きなのは知ってるし。早く告白すればいいのに」

「うるせぇ」


 ただでさえ陽愛と幼馴染というだけで羨ましがられて嫌われているのに、陽愛と付き合っていることを言ったら、俺は全校生徒の男子から嫉妬と殺意の目で見られることになる。

 ネットにも晒されるかもしれない。


「幼馴染なんだし、もしかしたらいけるかもしれないぞ」

「そんな事ない。お前だって知ってるだろ? 今まで陽愛に告白してきた男子たちを、全員ふられてるんだぞ」

「それって逆に好きな人が居るからなんじゃねぇの? 例えばお前の事が好きだけど、自分から告白するのは嫌だ、みたいな」


 斗真は感が鋭い。

 斗真が言っていることは、昨日陽愛が言っていたこととほとんど当てはまっている。


「そんなわけないだろ」

「それはどうかなぁ~。もしかしたらあると思うんだけどなぁ~」


 斗真はそう言って頭の後ろに手を持っていく。


「ねぇ、蒼汰」

「ッ! びっくりした。なんだよ、陽愛か」


 急に後ろから可愛らしい声で名前を呼ばれて少し驚いた。


「可愛い幼馴染に向ってなんだよは無いでしょ~」


 自分で可愛いって言うなよと言いたくなるが、実際可愛いので言うことができない。


「はいはい、ごめん」

「はいはい、だけ余分なの!」

「ごめん」

「それでよろしい!」

「それで、何?」


 わざわざあの沢山の人たちから抜け出して俺に話しかけてきたってことは話があるからに決まっている。


「今日のお昼休みは一緒に食べよ?」

「は? お昼?」

「うん。お昼休み」

「良かったじゃん蒼汰、可愛い幼馴染からのお誘いだぞ」


 今まで陽愛からお昼の誘いをされることなんて一度も無かった。

 それは陽愛が人気者のあまり、沢山の人から誘われていたからかもしれない。

 けれどもう俺と陽愛はただの幼馴染ではない。恋人同士になったんだ。

 ならお昼を一緒に過ごしてもなんら不思議ではない。


「わ、分かった。けど良いのか? 他の誰かに誘われたりしてないのか?」

「まだ誘われてないよ、だから先に私が蒼汰を誘ってるの。じゃあお昼休みになったら一緒にお弁当食べようね」


 陽愛はそう言いながら俺に手を振って自分の席に戻った。

 可愛い……

 初めて陽愛からお昼を誘われて内心は物凄く嬉しい。


「陽愛ちゃんと昼休み一緒に過ごせるなんてやっぱり羨ましいなぁ~。幼馴染の特権だな」

「別に特権なんかじゃねぇよ」

「ほんとうは嬉しいんだろ? 別に隠さなくても良いのに」

「別にそんなんじゃ」

「良いって、良いって。俺ら何年こうして仲良くしてると思ってるんだよ。顔みりゃ分かる」

「はぁ、嬉しいよ。嬉しいに決まってるだろ」


 斗真にこう言われては本当の事を言うしかない。


「今まで陽愛から誘われたことなんて一度もなかったし」

「まぁ、その代わりにさっき陽愛ちゃんと話をしている時、お前めちゃくちゃ視線集めてたぞ」

「マジ?」


 陽愛に昼食を誘われたことが嬉しくて周りの事なんて見ていなかった。


「もう慣れたってか?」

「まぁ、慣れた。お前だけだよ、俺の事をそんな目で見ないのは」

「昔からお前が陽愛ちゃんの事を好きなのは知ってたからな。それに……」

「それに、なんだよ」

「また今度の機会に教えてやるよ」

「なんだよ、気になるところで終わらせやがって」


 俺がそう言うと、斗真は笑いながら「聞けるように頑張れよ」と言ってきた。

 何を頑張ればいいんだよ。

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