第21話 尋問と提案
「ほんとっ⁉」
差し出された情報に夏那が一瞬で飛びつき、尋問対象に更なる接近を果たす。暑苦しい態度を嫌がる後輩がまた微笑ましい。
「その言い方、どこか引っかかる部分があるけれど……」
対照的に、斗乃片は警戒心を隠し切れずに目を細めている。意見の分かれた二者は距離を詰めて、こそこそ話と緊急作戦会議を開始した。
となると、この二人に捕まっているちびっ子も秘密の相談に巻き込まれるわけで、
「なんすかこれ……近すぎ……うぜーっすよ……」
死んだ瞳をしながら辟易していた。全身は脱力しきって膝立ちの姿勢であり、見違えるような覇気は見る影もなく引っ込んでいた。
こしょこしょと囁きがあるたびに、心後輩の体が細かく震えて楽しい。
「――たしかにこの子はあやしーけど、聞いてみなくちゃ!」
「そうね、喋ってくれるだけマシ……かしら。他の『運営』メンバーは頑なに口を割らなかったことを考えると――」
これで会話の中身が丸聞こえでなければ完璧だった。俺だって彼女らとはそう離れていないうえ、囁き度合いが甘いから結構聞き取れる。
それにしても、斗乃片と夏那の仲が随分と縮まっている気がする。さっきの口ぶりからして、他の『運営』面子にも接触したようだし。
いつの間に。いや、俺が居場所のない教室からいつものように逃げ出し、後輩との恒例雑談をやっている間だが……。
不思議と、仲間はずれの一人ぼっちになった気分だ。なんて幼い気持ちなんだろう。
この感情はまったくもって正しくなく、幼稚で今すぐ捨ててしまいたい情動であり、かといってすぐに捨てきれないので困る。
部屋の隅や机の端にいつまでも置かれがちなものは中々片付かず、いざ掃除しようとしても他に目移りするのが世界の理だ。
今だって例外ではなく、ちょうど面白い後輩が眼前で身もだえている。
「ひぅ、はう……こそばゆっす……ちょっと! あたしの耳元でこしょこしょすんのやめにしてもらっていいすか!」
「心さんが逃げ出さず、勿体ぶらず、情報を余さずに私たちに伝えてくれるのなら、その申し出を喜んで受け入れるのだけど――」
「そんな贅沢な命令、いくら上級生といえど頷けな――」
「なら、結末はひとつね。七都名さん、やってしまって」
「思う存分やっていいの? じゃあ、やっちゃうよ」
悪の親玉さながらの指示とその過激な部下みたいなやり取りがあった直後、
「――~~~~~~~~~~~~」
エプロン付きの幼馴染が、無理やり抑え込まれた女子に密着して、もごもごと口元を動かした。
「ひうっ、ひゃ、ゃん、う、やう、い、言うっす! 言わせていただくっす! 喋るっすからやめてっすってぇ!」
即落ちだった。
三秒待たずして個々菜心は陥落した。
「よし、やめなさい」
「りょーかい!」
斗乃片の合図を境に、こしょこしょ攻撃は中止となった。最終リザルトは、やけに楽しそうな悪役二人と、肩で息をして頬が真っ赤になっている後輩の構図だ。完全勝利した悪の親玉は、ゆっくり大仰に口を開く。
「さあ、早く喋りな――」
「やっぱ幼馴染さんの場合は集団内でどれほど注目されるかだと思うんすよね。感知と無視を焦点にしてこれまでのパッチノートも記述されているっすし。となればやはり基準が大事っす。どの程度から人気者なのか不人気ぼっちなのかみたいなのを調べたいところっすけど――」
立て板に水どころか高圧放水レベルでの畳みかけがあった。まあまあ乗り気で命じた人間が、勢いに押されている。
「あちなみに転校生さんの方はどうっすかね。視線を切ることが一番なんすけど教室がある以上徹底は不可能っすし個人モニタでの授業があるから盗み見もし放題なわけで対策は難しいっすね前面モニタでの指導が多めの授業を取りつつ席順を後ろにすればなんとかなるっすか――てかそもそも、仮面とマントの『調整』取り消したいっすか? なんかノリノリでコスってる感じっすよね?」
「そ、そうね。私はこれを気に入っているから、その辺りは考えなくていいわ」
「まじっすか。だせーっすのに」
斗乃片の格好を一瞥すると、あれだけあったお喋りの推進力が失われていく。思い切り萎えたオーラ全開の後輩に対し、
「「ダサくない!」」
俺と斗乃片は声を重ねて強い否定を投げつけた。
「そ、そうっすか……」
引く側と引かれる側が急に逆転したらしい。なぜだろう。
そんな好みはともかくと、後輩は仕切り直しの咳ばらいを一つして、『運営』としての語りを再開した。
「なら幼馴染さん中心っすか。中々目立つのって難しいんすけど、ここにはちょうど話題の転校生さんがいるっすし――」
女子二人をじっと観察してから、
「お二人で滅茶苦茶どろどろ甘々に仲良くするっすよ! ずっと一緒でイチャってキラってれば大注目間違いなし! 存在感ありとして『調整』諸々一発取り消しで一件落着解決っすね!」
と、無責任に言ってのけた。
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