第10話 幸福な男

 その男は不運でした。何もないところでつまずき、浮気したと勘違いされて女房に逃げられ、仕事の資料をスリに奪われ紛失してしまうなど、これ以上とないぐらいに不運でした。男は、誰でもいいからこの不運体質を治してくれないものかと悩んでいました。


 ある日、男は商店街で奇妙なモノを売っている老人を見つけました。屋台の看板には汚い文字で『青い鳥』と書かれていました。檻には綺麗な青色をした鳥がぎゅうぎゅうに詰められていました。

「じいさん。この青い鳥って言うのはなんだい?」

「青い鳥と言うのは古来から幸せを呼ぶと言われている鳥です。いかがです?今ならお安く買えますよ。」

幸せを呼ぶ鳥。男は半信半疑になりながらも、もしかしたら自分の不運体質が少しでも治ったらと思い、一羽だけ購入することにしました。老人は最後に、

「青い鳥は勤勉な人を好む。日々小さなことでも怠っていると、青い鳥はただの小鳥になってしまうから気をつけるんだぞ。」

男は快く了承し、青い鳥がもとの小鳥にならないように、日々努めることにしました。


 その日から、男は何もかもうまくいくようになりました。今までになくしていたものがみつかったり、仕事は平社員から係長に昇格しました。女房の誤解をとくことに成功し、その後二人の間には玉のように可愛い男の子が生まれました。男はあの日青い鳥をくれた老人に心から感謝しました。


 ある日、男が老人にお礼をいいに商店街に訪れると、老人はおろか、屋台すら跡形もなくなくなっていました。男は驚いて、通行人の女に「ここにあった屋台は?」と尋ねました。すると女はこう言いました。

「ああ。あの老人は逮捕されたみたいよ。なぜかって?ただの鳥に青色のペンキを塗って、幸せを呼ぶ鳥とか言って売っていたらしいわ。全くひどい話ね。」

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