短編集
羊七
第1話 空を手に入れた男
ある小さな村に、仲のいい男と女がいた。
男は裕福な家の生まれで、これ以上とないぐらい卑しく、欲深い人物だった。
一方女は男とは対象的に質素で、無欲な人であった。愛と神の言葉さえあれば何もいらない。というのは彼女の口癖だった。
このように、一見正反対の彼らだが、たまたま天体観測(もっとも、望遠鏡などの特別な器具を持ち合わせず、ただ星空を眺めるだけのものだったが。)という趣味が一致し、徐々に交流を深めていった。
そのうち、男は女を前にすると、金のことがどうでもよくなるぐらいに、彼女の事を心から愛するようになった。
そんなある日、男は女がもうすぐ誕生日を迎える事を知り、彼女のために、彼が考えうる限りの最高のプレゼントを用意した。純金でできたネックレスに特大のダイヤモンドが飾られた指輪、白いレースのついた美しいドレスにどこまでも見渡せる望遠鏡、、、、。どれも一級品とよぶに相応しい品ばかりであった。彼は期待に(彼女の笑顔を思い浮かべながら)胸を膨らませながら、彼女にそれら全てを渡した。しかし、彼女は黙って首を横に振るだけで、彼が用意した品物の一切を受け取ることはなかった。
どんなプレゼントなら彼女は喜んでくれるのだろう。男は悩み、当てもなく空を見上げた。すると、溢れんばかりの星が、輝いていることに気づいた。
「これだ!これなら、この星空をプレゼントすれば、彼女も喜ぶに違いない。」
はたから見れば正気とは言い難い発想だが、彼はそれを最善の策だと思い込み、早速ヘリコプター(もちろん、彼の家のものである。)に乗り込んだ。
しかし、空まで行くのはいいものの、どうやって空を持ち帰り、彼女にプレゼントするかは検討もつかなかった。そこで、彼は、一部分の空だけを壊して、それを持って帰ることにした。
男は、てはじめに、空に向かってミサイルを3発撃った。どれも空には飛距離が足りず、雲を抜けて下へ下へと落ちていった。もっと近づいて今度は5発。当たった。だが、空は傷一つつかなかった。そうして、男は10発、20発とどんどん
弾数を増やしていった。
そうして、彼と空の攻防戦は朝まで続き、結果、彼が勝利した。彼は壊れた空のカケラをリュックいっぱいに詰め、彼女の元へ急いだ。これを見た彼女はどんな顔をするだろう。彼はそれを考えるだけで自然と口元が緩んだ。
だがそれが無駄なことだったのに気づいたのは彼女の家の前へついた時であった。
彼女は、彼女の家は燃えていた。炎は、檻のように彼女の家を包み込み、決して出入りを許さなかった。なぜだ。男が呪文のように唱えていると、老人が話しかけてきた。老人曰く、彼女の家に何者かがミサイルを落としたのだそうだ。男はそのミサイルに覚えがあった。最初に放ったミサイル。飛距離が足りずに落ちていったミサイル。ー彼女を殺したのは間違いなく彼自身だった。彼は歩く。当てもなくぶらぶらと。空が詰まったリュックを抱えて。
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