第12話 恋とは難しい駆け引き


 状況が状況なだけにすぐに飲み込めずに考え込む鏡月を見て、里美が変わりに病室の片付けと荷物の整理をしていく。鏡月がしばらく考え込んでいる間に荷物の整理まで終わった里美が声を掛ける。


「荷物の整理まで終わったわよ。とりあえず鏡月の家に帰らない?」


「あぁ。ありがとう」


 急に話しかけられた事に驚く鏡月を見て里美が微笑む。


「どういたしまして。今日は荷物持ってあげるわよ」


「別にいいよ。自分で持つから」


 鏡月が荷物の入ったバックを持つ為に手を伸ばすと、


「だからいいって。人の好意を無駄にしないの」


 と、里美が言ってきた。そのまま鏡月の荷物が入ったバックを持つ。


「ありがとう」


 鏡月と里美はそのまま受付で退院する事を伝えて会計を済ませ病院を出る。病院を出てからの帰り道で鏡月は里美に聞いてみる事にする。アリスが言っていた言葉の中でずっと疑問に思っていた事を。


「なぁ能力以外の力ってこの世に存在するのか?」


「そうねぇ~。ん~ある事はあるかなぁ?」


「それはどんな力なんだ?」


「能力が使えない人間が機械を装備して能力者と同じもしくは類似した能力を使うの。要は機械で能力に必要な力を補っているのよ。ほらあんな感じで」


 里美の指さす先を見て鏡月はその言葉の意味を正しく理解する。里美の指さす先にあったのは空中に照射された一つの映像だった。その映像の内容は機械を身体に装備して能力者相手に戦うと言ったCMだった。


「成程。てかフル装備七百万ってたかぁ!」


「フル装備七百万でこの性能なら安いと思うけど?」


 金銭感覚の違いなのか知識量の差なのか同じCMを見たはずの鏡月と里美の意見が綺麗に別れる。


「いや、高いだろう?」


「能力が使えない人間が中級能力者と同じレベルで能力を使えて簡易着脱可能でこの耐久性なら十分に安いわよ。それに全身装備でたったの十キロしかないのよ。これなら子供や女性でも装備して戦える。護身用としては持ってこいだと思わないの?」


 鏡月は自分の知識量のなさに悲しくなった。里美に説明されて見ると確かにと言ってしまう程里美の感性が正しく、鏡月の感性がずれていた事に気づく。


「言われてみればそんな気がする。てかあの一瞬でよくこんだけの情報を覚えれたな」


 鏡月の言葉に里美は首を傾げながら振り向く。


「んなわけないでしょ。今のCM最近有名なの知らないの?」


「え?」


「あの価格でこれだけの性能がある能力補助装備を量産体制にして、市販化したってつい最近ニュースでも話題になったわよ」


「あっ……そうなんだ」


 テレビを全く見ない鏡月に里美が何で知らないのと言いたげに説明をしてくる。鏡月としてはここ最近そんな余裕が私生活になかったのと、元々テレビ見る習慣やニュースを見る習慣もないのでそう言った事に関しては無縁になっていた。


「たまにはテレビも見ないと世間について行けないわよ?」


「そう言われもなぁ」


「いいからたまには見なさいよ」


「はい」


 明日の試合とは関係のない事を話していると、目的地である鏡月の家に到着する。鏡月はそのまま里美から荷物を受け取り家に帰る事にする。


「荷物持ってくれてありがとうな。ここまででいいから」


 鏡月がそう言うと里美が不服そうな顔で顔を見てくる。


「ここまで来たら一緒に行くわよ。それとも女の子に荷物を持たせるだけ持たせてそのまま家に帰すつもり?」


「…………」


「何よ? 文句あるの?」


「いえ……何もありません」


「ならお茶の一杯でも出しなさいよ」


 鏡月はため息を吐いて返事をする。


「はぁ……暗くなる前には帰れよ?」


「当り前。男の家に夜二人きりだとなにされるかわからないじゃない」


 そう言って家の主である鏡月を置いて里美は鏡月の家に向かって歩いて行く。


「あいつ本当にわかってるんだよなぁ」


 と、言って鏡月が里美の後を追いかける。


 鏡月の家の中に入ると、里美が持っていた荷物を鏡月に渡して部屋の中で腰を下ろして座る。

 先ほど里美に言われた通りに鏡月は二人分のお茶を用意して里美が座っている場所まで移動してお茶を差し出す。


「ありがとう。やればできるじゃない」


「へいへい。それはありがとうございます」


 鏡月が座ると里美が微笑みながら出されたお茶を飲む。とりあえず里美のご機嫌が悪くない事を確認して鏡月もお茶を飲む。


「それで、何でここに来た?」


「ん?」


「いや里美が用もないのに男の家に行くって考えられないなって思って」


「あぁ~知りたい?」


「うん」


「あるバカがこそっとあいつの所に行かないようにする為と退院した鏡月が心配だからよ」


「里美がそこまで人の心配するって珍しいな。確か中学の時は、誰が何を勝手にしようとそいつの勝手とか言って人にそこまで興味がなかった気がするが……」


 鏡月の言葉に里美が当り前のように肯定する。


「今でもないわよ」


「え?」


 鏡月はてっきり人に興味が出たのかと思っていたがどうやら違ったみたいだ。なら何故里美がここまで鏡月の心配をするのかがわからなかった。


「私鏡月じゃなかったらここまでお人好しにならないわよ。その証拠に今日、昨日私に告白した高山君からのデートのお誘い断って今ここにいるから」


 里美の言葉に鏡月は確かに変わってないなと判断する。昨日告白してきた男子の名前を間違っている時点で本当に人に対して興味がない事がわかった。同じ男として、もし鏡月が昨日里美に告白した高山君ならぬ高橋君ならどれだけショックを受けた事だろうかと思う。それに勇気を出して振られたのにも関わらずめげずにデートのお誘いをして再び断れた理由が他の男のお見舞い兼監視と言う事を知ればかなりのショックだろう。もし鏡月ならしばらく立ち直れない気がした。


 男と言う生き物はとても単純で大まかに分けると、好きになった女性にはとことん振り向いて貰う為に頑張り行動するか、嫌われたくないと言う想いに邪魔されて奥手になるかのどちらかだ。高橋君が前者とするなら鏡月は後者だと鏡月は自分自身を分析する。別にどちらがいいかってわけではないが鏡月から見た高橋君はイケメン且つ上位能力者で噂によると女子に人気がある。鏡月とは正反対の人間であるが故に羨ましくも思えた。彼女いない歴と年齢、告白された回数、告白した回数が全てイコールの鏡月からしたら高橋君の行動力はとても高く見えた。


「里美って可愛い顔して意外と残酷なんだな」


「何で?」


「だって友達になった高橋君の名前を思いっきり間違えているだけじゃなくてデート断って俺といるって……高橋君が知ったら泣くぞ?」


 急に里美の声が小さくなる。


「何よ。私だって……鏡月が入院しなかったら……あんたの気を引く為にデート行ったわよ。何よ。私の気持ちに微塵も気づかない癖に偉そうに」


 里美がブツブツと何かを言っていたがあまりの声の小ささに鏡月には何て言っているのかが全く分からなかった。

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