2
最後に母と台所に立ったのは、いつのことだっただろうか。
小学生の時分には、料理の手伝いと言ってももやしのひげ根を取ったりだとか、さやえんどうの筋を取ったりだとかいうような、なるべく刃物と火気の及ばない範囲の仕事しかやらせてもらえなかった覚えがある。そして僕が手伝った日は、ご飯の時間が大抵いつもより遅れることも。
自分が母の邪魔にしかなっていないのではないか、と気づいてからも『手伝って』と言われれば手伝った。別にそれでお小遣いがもらえるとかはなかったはずで、十五にもなると見返りもないのによく素直にいうことを聞いたものだ、と思う。
どうして僕がそんなことを思いだしているのかと言えば、それはもう、いままさに僕が夕飯の準備をお手伝いしているからに他ならない。
寝癖をなおし、紺色のノーカラーシャツと白いデニムに着替えた僕は、ちよさん監修のもと、
「1.5センチ幅を意識するの。左手でしっかり押さえてね」
「は、はい……」
二分の一にカット済みの大根の下側を、ちよさんの指示通りに切っていく。我が家に眠っていたほとんど新品の包丁は、直径10センチほどの厚みを抵抗なく切断し、そのたびに手が滑った時のことを考えて血の気が引いた。大根は見た目より刃の通りがよいのが救いだが、初心者が気を抜くものではない。一刀に集中して、正確に1.5センチ幅で切る。
「そうそう、上手上手」
褒められるのは嬉しいが、反応する余裕はなかった。やがてすべてを切り終えてやっと、一息つく。
「じゃあ次は皮を剥いてみましょうか」
「……はい」
輪切りにした大根のひとかけを手に取った。気乗りはしない。単純に縦に力を入れればよかった今までと違って、皮を剥くとなれば繊細な力加減が求められる。それこそ手を滑らせたりなんかすれば、右手に持った包丁の刃が左手に食い込む、なんて事態もあり得なくはないだろう。
「いきます」
無意識に宣誓して刃を入れる。
少し深く入りすぎたか。力を抜いて、気持ち刃を引き戻す。大根を回すのよ、というちよさんのアドバイスを聞きながら、面取りもして、不格好ながら一つ目が剝き終わる。
「気持ちのこもった大根ね」
触りすぎで温くなった大根をそう評し、ちよさんは微笑んだ。指示をうけてそれをさらに半分に切り、よける。二つ目、三つ目と、それなりにコツをつかみながら同じ作業を繰り返し、なんとかすべてを切り終えた。
シンクにふと視線を向けると、いつの間やら皮の剥かれたごぼうやら人参やらが冷水に浸っていた。ちよさんは僕に指示を出しながら、あれこれと他の食材の下処理を進めているようである。
やはり邪魔にしかなっていないのでは?――と内心で首を傾げつつ、自分から申し出た手伝いであることを思い出して、気を引き締めた。
「次は、里芋。煮っころがしにするつもりだけれど、食べたことはある?」
「え、あ、はい。好物です」
いきなりの質問に、本心がそのまま零れる。
ちよさんは相好を崩した。
「そう。それは良かったわ。最近じゃあまりこういう野菜に馴染みがない子もいるって聞くから。そうは言っても、私にはいまどきの野菜の方がなじみがないから不安だったの」
アボガドとか言ったかしら、とちよさんは言う。
「アボカド、だそうですよ」
訂正すると、そうだったかしら、とちよさんははにかんだ。
食べたことはあるけれど、僕はあれを特別美味しいと思ったことはない。ねちょっとしていて、脂肪をまんま齧っているようなのに青臭いから、味覚と触覚が混乱してまいど拒否反応が出る。
里芋はまず泥を落として、上下の皮を切り落としてから、包丁を手前に引くようにして皮を剥く。これがかなり大変だった。大根と違って、一粒が小さい里芋は、指の配置に気をつかうし、皮が剥けるとつるつるすべって危なっかしい。何度も指を切りそうになりながら、力の加減と刃を入れる角度を覚えていった。これもすべて切り終えると、包丁はついにちよさんの手に渡った。
例によってちよさんは僕の倍近い手際で作業を進めていたらしく、シンクの中にはゴボウや人参の浸ったボウルとは別に、湯通しされて表面が白くなったぶりの切り身が冷水につけられている。右やら、左やら、タイミングによってアドバイスが飛んでくる方向がまちまちだったのは、ちよさんが火を使っていたかららしいと分かる。気が付くと、台所にはいいにおいが立ち込めていた。
「ぶり大根ですか?」
「大正解! コンロは二口あるでしょう。ぶり大根は私が見るから、幸司郎ちゃんは里芋をゆでてもらえる?」
里芋はぬめりを取るのに下茹でが必要だとか。鍋の中がぐつぐつと煮立ってきたあたりでざるにあげるよう言われ、その後たっぷり水の入ったボウルの中で一つ一つ丁寧にぬめりを落としていく。鍋の底に昆布を敷いて、里芋を入れ、だし汁とともにふたたび火にかける頃には、隣のコンロで大根の入った鍋が沸いていた。
「むか~しはね、こっちが私の家だったのよ」
沈黙を嫌うように、ちよさんが口を開いた。
「旦那と私、一人娘と三人で暮らしてた……」
懐かしいな、と呟いて、台所の窓から遠くを見るように目を細める。そのときばかりは、せわしなく動いていたちよさんの右手も止まった。少ししてからまたザクザクと三つ葉を切る音が心地よく響き始める。
「……すみません」
謝ると、ちよさんは驚いたように僕を見た。子気味よい音が、再び止まる。
「あら、どうして謝るの?」
「父から聞きました。『無理を言って借りたんだ』って」
僕は知らない。父とちよさんの間に、どのようなやり取りがあったのか。
でも、父がわざわざ『無理を言った』と言うくらいだ。ちよさんは渋ったのだろう。結局は住まわせてもらうことになったけど、ちよさんがこの家を賃貸する気がなかったわけは、ちよさんの態度で僕にもなんとなく分かった。だから、言う。
「思い出の場所なんですよね。僕たちは無茶を言って、そこへ土足で踏み入るような真似をしてますから」
謝らなければと思った。少なくとも、ちよさんほど僕はこの家を大切に想っていない。なにせ、ボロ家だなんだと、内心では好き放題に愚痴をこぼしているのだ。
まな板の表面を、包丁の刃が撫でる音がした。
音に釣られてそちらを見ると、三つ葉がまな板の端に寄せられている。そうね、とちよさんは頷いた。鶏むね肉のパックを開けながら、言葉を続ける。
「思い出の場所、大切な場所よ。だからね、本当に嫌なら誰にだって貸さないわ」
力強く言い切るちよさん。
喜ぶべきか、もう一度謝るべきか、お礼を言えばいいのだろうか。こういうとき、どんなふうに相手の気持ちを受け取ったらいいのか分からずに、僕がなにも言えないでいると、ちよさんは突然「あ!」と声をあげた。
「お鍋! 火! 弱くして!」
「うわ!」
手元を見れば、煮っころがしのだし汁が吹きこぼれかけていた。慌てて火力を弱めると、焼いた餅がしぼむように、だし汁の嵩が低くなっていく。ほっと胸を撫でおろしていると、ちよさんが僕の手元を覗き込み「よさそうね」と呟いた。結構な量の砂糖を投入し、アクを取り、アルミホイルで落とし蓋をしてここからさらに中火で煮込むという。
ぶり大根とは名ばかりだった“大根煮”にも、ついにぶりが加わった。さらに酒と砂糖を入れて、こちらにも落とし蓋。弱火でコトコト、じっくりと火を通す。煮込み料理は待ち時間が長い。自然と言葉を交わす機会も生まれた。
「さっき、娘さんがいるって言っていましたが」
なにを聞きたいわけでもなくそう言うと、ちよさんは嬉しそうに頷いた。
「えぇ、言ったわね。北川にいるわよ」
「一緒に暮らさないんですか?」
何気なくそう訊くと、ちよさんは声を抑えて笑い出す。そんなにおかしなことを言っただろうか。
「そうね……そう出来たら、って思う反面、元気のあるうちはカッコつけてたいって気持ちもあるのね。一度親元を離れた子と一緒に暮らすって、ほら、色々難しいと思うしね」
「はぁ……」
家族相手にも、そういうものだろうか。
ちよさんは柏手を打って、言葉を足した。
「ああ、言い忘れてた。娘は結婚してるのよ」
「なるほど」
言うほど分かってはないけれど、ひとまず頷く。
例えば僕が将来結婚して、父がまだ存命であったなら、と考える。一緒に暮らそう、と声をかけたとして、父が素直に首を縦に振るようなイメージはどうやっても沸かなかった。そういうものか、と適当に納得する。
そういえば、とちよさんは胸肉を切りながら言った。
「孫がちょうど幸司郎ちゃんと同い年でね」
「そうなんですか」
「元気で、明るくて、思いやりのある子だから、きっと仲良くなれるわ。最近はよく一人で会いにきてくれたりするの。お婆ちゃんと話してると安心するんだって、いい子でしょう? この前なんか――」
話半分に聞いていた。贔屓目がはっきり感じられたし、中学を出たばかりの人間の本質なんて、たかが知れている。そもそも、会う機会がないだろう。
「……と、ごめんなさいね、長々と。とにかく、北川高みたいだから、よろしくね」
「わかりました」
脊髄反射のように頷いてから、えっ、と素っ頓狂な声をあげてちよさんを見る。ちよさんは、悪戯に成功した子供のように笑っていた。
言質をとった、と年甲斐もなくちよさんがはしゃぎだすようなことはなかった。
どころか、ちよさんはそれ以上孫について語らなかった。
元気で、明るくて、思いやりがあるという以外になんの情報も明かさなかったのは、ちよさんなりの考えがあってのことだろうか。
それとも、単純に忘れているだけ?
気になることは多々あれど、考えている暇はなかった。
「ぶり大根はしょうゆ3、みりん1くらい。里芋はしょうゆ2、里芋はまだまだ煮るからね。ああ、全部大さじ!」
「は、はい……!」
慌ただしい。
矢継ぎ早に繰り出される指示に、とりあえず頷いてはみたものの、どこを探しても計量スプーンが見当たらない。
「あの、家に計量スプーンがないみたいなんですけど……」
「だったら目分量でいいわよ」
でた、と思った。少々・適量・1かけ、などなど……たまに“適宜”とかいうのも見かけるが、加減が分からないからレシピを頼りにする初心者に、どうしてこう料理というのは優しくないのか。特に“味付け”という重大な局面で、個々人の裁量にゆだねてくるなんて、嫌らしいことこのうえない。
だからやる気が出ないんだ、などともっともらしい建前を内心で振りかざしながら、僕は手に持った醤油のボトルとちよさんの横顔を交互に見る。
ちよさんは僕の視線に気が付くと「ちょっと待ってね」と、豚の薄切り肉でペーストになった梅干しと青じそ、スライスチーズを巻く手を速めた。
「そうよね、目分量なんて急に言われても分かんないわよね」
「すみません……」
僕は醤油ボトルを
見てて、と言うと、ちよさんは鍋の上で醤油のボトルを傾けた。ぶりのエキスで濁っただし汁に醤油がトポっと注がれて、焦げ茶色が滲むように広がっていく。
「これがまぁ大体、大さじ1くらいよ」
「なるほど」
やっぱりよく分からない。
ちよさんは同じだけの量の醤油をあと二回は入れて、みりんも加えた。
「あと数分も煮込めばぶり大根は完成ね。お皿を用意してもらえる?」
「はい」
食器棚から手ごろな器を三つ選んで持っていくと、ちよさんが「私の分はいらないわ」とそう言った。悪いと思ったが、ちよさんが言うには、「これはあなたたちのために作ったんだから」と云うことだった。
数分後、二つの器にそれぞれこんもりと盛られたぶり大根が完成した。夕飯にはまだ少し早いので、ラップをかけて食卓に運んでおくことに。
ちよさんはさっきまで使っていた鍋を洗って、もう一度コンロに乗せた。そこへだし汁・鶏むね肉・ごぼう・人参、それからいつの間に切ったのか、こんにゃくと干ししいたけを入れて中火にかけると、僕の方を振り向いた。
「お米はといだことあるわよね?」
「あります」
コンビニではおかずだけ買ってくる日もあったので、米とぎだけは自信があった。
ちよさんに言われて3合の米を研ぎ、炊飯器にセットする。タイマーを設定しようとすると、まだ炊かないで、と止められたので、ちよさんがいま何を作っているのか、なんとなく察しがついた。
「さぁて、あとは任せてもらって結構よ」
疲れたでしょ、と笑みかけられて、素直に頷く。
「休んでいるといいわ」
とも言われたけれど、さすがにそういう訳にはいかんだろうということで、風呂掃除でもしながら適当に時間を潰すことにする。
お湯を張り、半時ほどあとになって台所に戻ってみると、ちよさんはまだ台所に立っていて、ならば、と今度はトイレを磨き、数分程度じゃまだまだ甘い、と洗濯物を畳んでいた最中で、炊飯器が「ピー!」と鳴る。
急いで残りの洗濯物を畳んで片付け、父の部屋の襖をあけた。
居間に入ると明かりがついており、とてもいい香りがして、食卓も華やかだ。
ぶり大根に、里芋の煮っころがし、梅青じその肉巻きに、卵焼き――じゅわっと唾液が一気に湧き出した。
ちよさんは炊飯器の中を混ぜ返しているようで、近寄ると、かやくご飯と三つ葉のいいにおいがする。食器棚から茶碗を調達してくると、ちよさんが盛り付けてくれた。
「お父さんはいつ頃帰ってくるの?」
父の茶碗にかやくご飯を盛り付けながら、ちよさんは訊いてきた。
「さぁ、どうでしょう。遅くても七時前には帰ってくると思いますが」
ちよさんが壁掛けの時計を見上げたので、僕も見る。いま六時をまわったところだ。陽もすっかり落ちて、辺りは暗い。
ちよさんは「そう」と呟いた。
僕はかやくご飯を食卓に並べると、カーテンを閉める。ふとマルに目をやれば、伏せの姿勢で、つぶらな瞳が空腹を訴えるように僕を見上げていた。
「お前にもいまメシをやるからな」
僕の言葉に反応して、マルはすっくと立ちあがる。
それ以上、マルがなにかを訴えかけてくる前に、僕は台所に向かい、シンク下の収納から犬の餌をとって戻ってくる。
マルの皿に餌をからからと盛りつけてやったころ、
「じゃあ、私はそろそろ帰るわね」
声に振り向くと、ちよさんが帰り支度を始めていた。
やはりお茶くらいは出すべきか、と思ったが、
「食事してるところを他人に見られてるのって、落ち着かないでしょ」
と、むしろ逆に気を遣われてしまう。
それはもう全くもってその通りだったので、お礼を言って、ちよさんの家の前までお送りした。道中、冷蔵庫に生のままの肉巻きと、ジンギスカン用のラム肉が入っているから、肉巻きの方は早めに食べること。残飯は絶対に長く放置しておかないこと、などといった忠告を受け、もちろんそのすべてに僕は「はい」と頷いた。
ちよさんの家をぐるりと囲う、外溝の塀の前で「おやすみなさい」と手を振り別れ、狭い道路を渡って家に戻ってくる。あらためて一人になると、どっとした疲れを感じた。
空腹感だけが素直で、体は重かったけれど、美味しそうなにおいに釣られて足を動かすだけの余力は残っていた。
椅子を引いて食卓につくと、視界いっぱいにごちそうが映る。箸をとって、かやくご飯を一口。その美味しさに、思わず僕は「んん!」と唸った。
止まらない。かやくご飯も、味の染みた大根も、ぎゅっと締まったぶりも、柔らかい里芋も、ジューシーな肉汁とチーズのあとに効いてくる、青じそと梅のさっぱりも、やっぱりこれだね、と言いたくなるような旨みたっぷりのだし巻き卵も。なにもかも。
新鮮な食材をふんだんに使った手料理は、コンビニ弁当や総菜、カップ麺漬けだった舌や胃に、これでもかというほど染みわたった。
夕食を終え、皿を下げて片付けたあと、お風呂に入る。ゆったりと熱い湯船に浸かっていると、玄関の鍵が開錠される音がした。ボディタオルから水滴が落ちる音と音の間に、ドアの軋む音がして、玄関に人の気配。
「ただいま」
という小さな声は、紛れもなく父のものだった。
もう少し浸かっていたい気もしたけれど、僕は早々に湯からあがった。この家に脱衣所はない。浴室ドアを開けると、真正面に玄関がある。
僕は風呂の内側から、父が居間のほうへ入っていった気配を感じ取ると、素早く浴室ドアを開け、近くに置いておいたバスタオルを取って体を拭いた。服もとりあえず、トランクスは風呂の中で履いて外へ出る。バスマットで足の裏を拭って寝間着に着替えると、まっすぐに居間へ向かった。
「これ、お前が作ったのか」
父の第一声はそれだった。普段は張り詰めている表情から、すっと緊張感が抜けて、父の顔は少し間抜けに見える。
僕は首を左右に振った。
「ちょっと手伝ったけど、ほとんどちよさん」
「へぇ」
父は華やかな食卓に顔を向け、何度も首を縦に振る。やや間があって、「うまそうだ」と、いつもより少しだけ高い声が聞こえた。
「制服は着てみたのか?」
自室でスーツをハンガーに掛けながら、父が言う。
まだ、と僕が答えると、父は顔を顰めた。内臓がきゅっと固くなる感じがした。
「入学式はもう明々後日だぞ、当日になって困るのはお前なんだからな」
先ほどまでの和やかな空気が嘘みたいに、父の声も視線もとげとげしい。
僕は内心で、それくらいのことで怒るなよ、と舌打ちする。
僕の不安だって、一切知ろうとしないくせに。
「……ごめんなさい」
だが、僕は謝った。
謝っても無意味であるのは承知している。父は、一度機嫌が悪くなると、とことん無口になるタイプの人間だったから。そして数日のあいだは世間話さえ難しいような、よそよそしさが継続するのだ。
父が着替えを選んでいるのを見て、風呂に入ることを察した僕は、浴室の前にぼうっと立っているわけにもいかず、居間の邪魔にならないところへ退避した。
それから、父が無言で僕を無視するように居間を横切り、風呂へと向かう背中を見送って、そそくさと自分の部屋に避難する。襖も閉めて、緊張感から解放される。
父と僕とは、昔からずっとこんな感じだ。愛されているのか、厄介がられているのか、良く分からない。どちらの可能性も実感としてはイーブンであり、世間体というもののおかげで、すんでのところで自分がこうして父の庇護下にあるような気もしていた。
『元気で、明るくて、思いやりのある子だから、きっと仲良くなれるわ』
ちよさんの“良い子”を言い表す、テンプレートのような台詞を思い出す。
――でも、万が一。
そう思った直後、僕は自分の甘えた考えを鼻で笑った。
常日頃、一緒に居る父親とでさえこうなのだ。まして僕と同い年の他人相手に期待なんて、するだけ無駄というものだろう。
寝るにも時間はまだ早い。僕は本棚から一冊の文庫本を抜くと、ベッドに腰掛け、適当にページを開いた。活字を追って、ページをめくれば夜が更ける。考えたくないことを考えずにいるには、昔からそれが一番だった。
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