『火の島』
やましん(テンパー)
『火の島』 上
地球を追放されたぼくが住むのは、どこなのかわからない星の、高い木の上の『巣』。
移動に使うのは、小さな充電式空中自転車であります。
ペダルをこぐことで、揚力と推進力が生まれるらしいです。
電池は、補助動力用で、まあ、電動自転車みたいなものです。
休むためには、所々の木の上に、公共休憩スペースがありますから、そこに降ります。
すると、たいてい、件の焼き鳥やさんなどがお店を構えています。
彼らは、毎日移動するらしく、同じ場所にいるわけではありません。
お店そのものを、いくらか強力な空中自転車で、引っ張って移動するのです。
お店をするには、管理者の許可が必要で、また、売上の一部を上納しているんだそうです。
管理者というのが、なにものなのかは、さっぱりわかりません。
ぼくらには、定期的に、管理者から、生活資金が配られますが、遣う場所は、限られています。
たぶん、宇宙ごき政府の一員か、その仲間だろうとは思われますが。
ここは、地上に降りない限りは、思ったよりも、わりに平和な場所で、いまのところ、おかしな事件には巻き込まれていません。
宇宙ごきも、警官さんなども、現れません。
雨は降ったことがなく、電気は太陽充電式で、食料は、買わなくても、木の実が、ばんばん、すごいスピードでなるのです。
しかも、水分もたっぷり含まれるので、この木の実だけでも、生きて行けます。
お手洗いや、シャワーは、巣のなかに備え付けられております。
どう、処理されるのかなんて、わかりません。
バスタブがないのは、お風呂の国の出身者には、ちょっと、ものたりません。
昼間は、怪しい太陽が輝き、光が満ちているのに、暑くはなく、むしろ、非常に幻想的で、全てが、影のような雰囲気です。
地上には、降りないようにと、解説書にも、しつこく書いてあります。
『焼き人間』にされる可能性が高いと、やはり、書かれています。
写真つきです。
原爆や、空襲の被害者みたいです。
とにかく、良くわからない場所なのです。
昼と夜はありますから、太陽の回りを周回する星のような場所だろうとは、思います。
夜は、ちょっと冷えるので、お布団にくるまります。
なにかに、空から襲われないための、安全対策でもあります。
ここの夜空は、たいへんに、美しいのですが、見える星の配置は、まったく地球とは、違います。
北斗七星もなく、北極星も、見当たりません。
太陽系の惑星もなく、シリウスとか、織姫ぼしとか、アンドロメダ星雲とかも、見当たりません。
まあ、来たばかりだからかもしれませんが。
地球から持ち出すことを許されるのは、ひとり、ふたつ、だけでした。
ぼくは、CDプレイヤーと、宇宙ごき政府と、すったもんだの末、また地球ごきの援助で、なんとかCDを100枚を付属物として、持ち込みました、あとは、くまさんだけにしました。
プレイヤーを稼働できるか心配しましたが、なんと、電源コンセントがありました。
くまさんは、大昔に母が作ってくれたぬいぐるみさんです。
ところで、ここは、非常に高い木の上です。
かなり、とおくまで、見渡せます。
所々の木の上には、追放された人間(かどうか、断定はできませんが。)たちが、すんでいるのです。光がちらちらしたり、自転車で動いてると、当然、見えたりするわけです。
しかし、ご近所と交流することは、固く禁じられていました。
破ると、長く、暗い牢屋に、拘留されるとのこと。
反乱を警戒しているのでしょう。
ただし、あの、公共スペースだけは、例外で、いっしょに、焼き鳥食べたりはできますが、常に監視はされているので、話の内容には、注意が必要です。
まあ、全体が、広大な刑務所みたいなものです。
で、毎晩、思うのは、遥か彼方に見える、巨大な、火の柱みたいなものです。
あれは、何なのだろう。
焼き鳥やのおじさんは、言います。
『あれは、火の島さ。近づくことは、出来ないらしい。が、まあ、おそらくは、火山なんだろう。いつも、同じように火を吹いているのは、ふしぎだけどね。10キロ以内に入ると、丸焼けになるらしい。だから、だれも、行かない。まあ、やろうとした不埒ものは、いたらしいがね。』
『へえ。誰ですか?』
『ほら男爵。ミュンヒハウゼン男爵カール・フリードリヒ・ヒエロニュムスさんだ。』
『はあ………?』
『小野篁さんと、サンジェルマン伯爵が、からんでいたらしいとも。ヴォイニッチ手稿も、ここと関わりがあるとか。はははははは。たぶん、ぜんぶ、嘘だとおもいますがね。ほほほほほ。』
焼き鳥やのおじさんは、正体が良くわからないのです。
『火の島』か。
行ってみたいな。
焼き人間にされても、なんだか、構わないような気がしたのです。
存在価値がないということは、焼き人間にされることと、大差ないのかもしれない。
ならば、存在価値を、主張したくなるのは、わからなくはないのです。
この世界で、それが、犯罪行為だとしても。
気の小さいぼくが、そんなこと、考えること自体が、かなり、異常では、ありました。
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『火の島』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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