死神 6

 病院の中に入ると、女はエレベーターのボタンを押した。そういやこの女、さっから一言も発してないな。顔色もずーっと同じ。オレは何か質問しようと思ったが、そんな雰囲気じゃなかった。

 エレベーターの扉が開いた。女はエレベーターに乗った。オレも黙ってエレベーターに乗ることにした。


 エレベーターから降りると、そこは廊下だった。ここで女はやっと言葉を発してくれた。

「見て」

 廊下の一面はガラス張りだった。ガラスの向こうは病室らしく、いろんな機材に囲まれたベッドがあった。そのベッドの中に寝かされている人間は・・・ たぶん昼間刺された初老の万引きGメンだと思う。

「とりあえず安定してるみたい」

 と、女は説明した。おいおい、本当か? 今あの人の足元に立ってんの、誰だよ? 黒いボンデージのかわいい女の子・・・ こいつ、死神だろ!

 ちなみに、最初に出会った死神はセパレートのボンデージだったが、今目の前にいる死神は、大きく背中が開いたワンピースのボンデージ。さっきの死神の髪型はショートボブだったが、今目の前にいる死神はツインテール。死神のファッションは黒のボンテージで統一してあるが、それ以外は自由なようだ。

「あなた、なんであのとき、逃げ出したの?」

 女が質問してきた。ようやく本題に入るようだ。

「別に理由なんかないよ。ビビっちまって、それで逃げ出したんだよ」

 うん、我ながらいい返答だ。が、それに対する女の反応はキツかった。

「ウソ!」

 ウ、ウソって・・・

「あなた、私の眼を見て逃げ出したんでしょ! あなたもあいつらの仲間だったんじゃないの?」

 なんだよ、こいつ、さっきの刑事と同じオツムかよ。あー・・・ ま~た一から説明しなくっちゃいけないのか? だいたいオレはあんとき、あんたの眼を見てないって!

 と、そのとき、けたたましい警報音が鳴り響いた。ほんとうに突然だった。

「な、何、これ?」

 女万引きGメンが慌て出した。どうやら病室の中の男の容体が急変したようだ。ま、死神が控えてるんだ。先が短いのは確かなんだが・・・

 すぐに2人のお医者さんと3人の看護師さんが病室の奥にあるドアを開け入ってきた。オレの隣にいた女は、両手でガラスをドンドン、ドンドンと叩き始めた。

「ねぇ、何が起きてんの? 何が起きてんのよーっ!」

 おいおい、そんなに思いっきり叩いちゃダメだろって。ガラスが割れるぞ。このガラス、かなり高いんじゃないのか?

 オレは再び病人の足元に立ってる死神を見た。あいつが頭の方に廻るとおしまいだったんだっけ? とりあえず追っ払ってやるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る