三千一夜物語
空野
夜話
昔話をしようか。
そう、王は盗賊を振り返った。
王の纏う青紫の衣が翻り、しゃらん、と金属の澄んだ音が響く。月の光を受けて夜闇に浮かぶ紅玉の双眸を見返し、盗賊は眉根を寄せた。
永い時を経て全てを清算した今、二人の間に交わされる情は、過去の在り方とは大きく違っていた。
けれども、新たに生まれたこの関係につける名を、生憎と二人は持ち合わせていない。そうして、名前すらない、その奇妙な距離感を、存外二人は気に入っていた。
昔話、か。
そう、盗賊は王の言葉を繰り返した。見つめた先にある、柔らかな色を宿す赤の瞳は、まるで子供の頃のような光を秘めている。
二人が出会ったのは、遠い遠い昔のこと。
まだ未来を信じることすら知らなかった青い日々。
そうだよ、と盗賊の言葉を肯定し、王は唇で弧を描く。
お前と刻んだあの時を、もう一度語り明かそう、と――。
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