今この瞬間、俺の人生は始まった━━━━絶望によって
阿呆ノ塊
第一章 少年の軽い心
第1話 よく観察し、考えて。疑問をそのままにしないで。
「いいいいぃぃぃっ!!やめてぇぇぇえええ!!」
「やめてくれぇ━━━━━ぐぇばぁぁああ━━」
「嫌だ。じにだくないぃ。だすけ━━━━」
奇声が悲鳴がする、僕の周りで。
年齢も性別も関係なく、僕以外の全ての人々が声を荒らげる。
今僕はそんな彼らの近く、遠く、また隣に立っている。
僕は何にもしていない。
強いていえば、そんな彼等を観ている。
僕は奇声を上げない。
怖くもないし、恐ろしくもない。
だが、彼等が恐ろしい理由も分かるし、理解も出来る。
ただ、もう僕にはそれ程の存在ではない。
引きちぎられ、喰われ、貪られる。その度に血肉が広がり、地を汚す。
彼等には抗うことは出来ない。
一方的に奴らにやられるだけ。
決まったことだから、それには抗えない。
許されるのは、抗わないことそれだけ。
この時絶望の扉が開き、絶望が侵入した。
そして、絶望が始まり、この世の基盤は崩れ去って終わった。
残ったのはほんのひと握りの希望、人々、大地━━━━
この時、確かに世界は終わった。でも、僕の人生は始まった━━━
✞
「くそっ」
失敗した。油断した。
いや、“油断した”というのは正しくない。
警戒は怠らなかった。寧ろ、いつも以上に警戒していた。
原因は違う。
基本的に奴らの下っ端は、殆ど決まった行動しかしない。
獲物を見つけていは喰らう。それしかしない。
だから、【奇跡】持った人間にとってそれ等は、大きな障害になり得ない。
奇跡を持たない人間は奴らの餌でしかない。
それ等は醜いケモノの様な容姿をしている。
浅黒い肌、人の身の丈の三倍近い図体、鬼の様な面、筋肉質な身体はボロボロで服は着ていない。生殖器はない。
その図体から繰り出される攻撃は凄まじく、殴る、蹴る程度の攻撃しか出来ないものの並の人間がくらうと、身体が鞠のように弾け飛び即死する。
幾ら奇跡を持っていても攻撃くらえば無傷とはいられないので、基本的には見つかる前に仕留める。出来ないのならば、回避優先の戦術になる。
これが奴らの下っ端、いや、『ティア』と戦う際の基本戦術となる。
俺も基本戦術に習い、ティアと戦っている。
木々の間を這い走り、木々の影に身を隠しながらティアを探す。
周囲確認と移動を繰り返し、しばらくした時、地を這い進んでいたティアを見つけた。
ティアの方は未だこちらを見つけられてはおらず、餌を喰らうべく周囲を確認しながら進んでいた。
ティアは一部を除き、他の動物と体内構造が似ている。
なので、首を落せば簡単に活動を停止させられる。首を落とすべく、ティアが丁度反対側に視点を向けた時を狙い、仕掛ける。
コンマ数秒でティアに近づき、抜刀。
直後、ティアの首は滑り落ちる。
刃に付いた血をはらい、納刀する。
その後その場所から離脱し、木々に身を隠す。
そして、新しい獲物を仕留めるべく、周りを伺う。
「━━━━っ!!」
驚きで声が出そうになるが、必死に抑える。
俺の視点の先にはこちらをじっと見つめる一匹のティアがいた。
ティアはケモノだ。
本能のままに餌を見つけ、喰らう。
視界に入った餌には一直線に走り、貪りつく。
餌を観察する、様子を見るなどありえはしない。
奴は数秒間こちらを見た後、雄叫びを上げながら近付いてくる。
気のせいだったか?そんな考えが脳裏に浮かんだが、一先ず思考を放棄した。
今するべきことは考えることではない。今すべきことは目の前のケモノを狩ることだ。
見つかってしまった以上、回避優先の攻撃となる。
だが、あまり時間がかかるようならば、撤退だ。
ティアは意図的かどうかは分からないが、雄叫びを上げ仲間を呼ぶ。
そうなるとこちらの不利になる可能性がある。
その前に仕留める━━━━。
背後に回り込み、首を落とすべく、先ずは左右に揺らし、混乱させる。
向かって右側にある木の影に跳ぶ。この時わざと奴がこちらを視認できるように跳ばなくてはならない。
奴がこちらを追う。最接近される前にまた、違う木に跳ぶ。
これを数回程繰り返せば奴は餌を捕まえられず興奮し、背後の隙が大きくなる━━━━━━筈だ。
なのに奴は隙を見せない。
俺を餌と認識し、正面から追いかけ、喰らおうとする。
そこまでは他のティアと一緒なのに、隙ができない。
『ティア』というケモノは完全な馬鹿ではない。
勿論、餌を見つけたら喰らうべく、正面から突っ込んで行くという点では馬鹿だが。
しかし、正面から突っ込んでも背後の警戒をしていない訳ではない。
餌を喰らうことしか考えていないのは確かだ。しかし、背後から来るかもしれない餌を考えていないわけでない。
ケモノ程度の知能しかないが、背後に誘き出しているようにも見える。
背後に回ることは簡単だ。だが、それは奴が誘き出している可能性が高い。
だから、奴が痺れを切らすのを待ち、背後に隙を見せた時に仕留める。
なのに━━━━━━
━━━━━撤退
その二文字が脳裏に浮かぶ。
━━━いや、大丈夫だ。
今回はイレギュラーかもしれない。
だが、今有利な状況であることには変わりない。
このままの状況が続いても奴の手がこちらに届くことはない。
しかし、仲間を呼ばれた可能性がある以上、そううかうかはしていられない。
今やるべきことは慎重かつ、早急に仕留めることだ。
大丈夫、問題ない。ティアは基本的に共闘しない。だから、他のティアと一緒に行動はしないし、ある程度離れた距離を置いて行動する習性持つ。
「━━━━━━━━どうして」
どうして、気が付かなかったんだ。
俺は確かにティアを殺した。なのに、すぐさま別のティアがいた。そんなことはありえない。
こんな簡単なことにも気が付けなかった。
初めからおかしかったんだ、こいつは。
ティアの近くに別のティアはいない。
それ故に
だが、今は違う。
それ故に奴━━━━いや、何かティアではない何かがいる。
敗走。
直後目の前にいるティアに背を向け、全力で撤退を始める。
だが、もう遅い。
瞬間、背後から浅黒い波、元いティアの大群が押し寄せてくる。
二桁に及ぶ数のティアが咆哮を上げ追いかけてくる。
幸い、駆ける速度はこちらが勝っており、このままいけば追い付かれることはないだろう。
恐らくティア達共を操る、若しくは従えている上位種がいる。その為、このまま逃げられる、なんてことはないだろう。
しばらくすると、後方から追ってきていた浅黒い波は見えなくなる。
━━━が、前方から別の浅黒い波が押し寄せてくる。
しかし、それは想定していたため、冷静に浅黒い波がなく、より木々の濃い右側に跳ぶ。
どうにかして安全圏に行かなくてはならない。だが、安全圏の方向に向かおうとすると、より多くのティアが押し寄せてくる。
追われ、撒き、別のティアに追われる。それをひたすらに繰り返す。繰り返すことしかできない。
反転して迎撃するというのはあまりしたくない。ティアのひと波程度であれば、迎撃できるであろう。
だが、そんな甘いことは、させてはくれまい。
一つのティアの波と戦えば、すぐさま周りで待機させているティアを向かわせてくるだろう。そうなれば、勝ち道がより薄くなる。
「はあっ、はあっ━━━」
失敗した。油断した。
いつも通りの簡単な仕事のはずだったのに、しくじった。
いや、“油断した”というのは正しくない。
警戒は怠らなかった。
原因は俺が傲慢だったことだ。
次第に息が切れ始め、少し辛くなってくる。
原因は俺が傲慢だったことだが、後悔は今すべきことではない。反省をしていられる状況ではない。
生きて帰れるのならば、いくらでもしよう。
「くっ!!」
このままでは体力を消費するだけだ。
何か、なにか、脱出方法を見つけなければならない。
対一の状況に持ち込むのは難しい為、対多数戦術の基本である各個撃破は少々難がある。
そう考えている間にも浅黒い波は押し寄せてくる。
右へ左へ移動するも確実に追い込まれてきている。
一度撒いた後に来る別のティアの波が進行してくるまでの間が、着実に短くなってきている。
その時━━━
ドゴオオォォ
走っていた地面が急に盛り上がり、ティアが出てきた。
幸い、と言っては何だが、大きく上部に跳躍することで、近くにある木に乗ることが出来た。
「更なる絶望をってか。はんっ、そんなもの俺にとって絶望にはなりえんわ。」
確実に俺で遊んでいる。
少しずつ
絶望を味わせるために過剰戦力を用意し、戦意を喪失させる。
それが奴らのやり方であり、存在理由だ。
しかし、俺にとってそれは絶望になり得ない。これからどんなに
「今すべきことはここから抜け出すこと。考えろ、考えろ、考えろ━━━」
だが、いくら奴らの狙いである絶望に陥ることにならなくても、この状況を打破できる訳では無い。
俺には生きなければならない理由がある。
やらなければならぬことがある。
「━━━━そうだ。」
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設定類は粗方考えてあるけど、シリアス具合は決めかねてるのが現状。
文字数は3000以上にはする。多分
まあ、ぶっちゃけ文字数はピンキリかな。
あんまし長いと修正とかしづらいんだよね。
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