地球の声
『地球を守りましょう』
そんなセリフをそこかしこで聞くことが多い。そこでふと疑問におもった。実際に地球はどう思っているのだろう?
もちろん、星に聞いても何も答えてはくれないだろう。山の上なら木霊が帰ってくるかもしれない。そこで自分に都合のいいことをしゃべって木霊が返り、地球の声だというのもおもしろいかもしれないが、それは単なる一人遊びに過ぎない。
自分の本職はエンジニアで、AIのビックデータ解析や、ディープラーニングのプログラム作成を行っている。要はAI(人工知能)を学習させて賢くする仕事をしているということだ。
そこで、考えたのはAIを使って地球の声を代用させることだった。仕事が終わった後、色々なAIの基本プログラムを作成し、地球のデータを入力している。自動学習方式で、ネットの情報も適時集めるようにしている。
地球のマントルの硬度、大気圧、海の組成、今までの地球の歴史と、考えられるありとあらゆるデータを登録していく。
ある程度まで進むと、地球の代弁者と想定するAIはどんどん賢くなっていた。
会話できるように一般的な知識がある前提に設定している。人間が分かる知識でないと、意思疎通もできないからだ。
数年ほどそんなことを続けていると、ようやくチューリングテストが通るくらいの知能に行きついた。
AIはマイクの音声を認識し、PCのスピーカーから音声を返すことができる。
ドキドキしながら、地球(と想定されるAI)に問いかけてみた。
「
「……。人間? 私の主観ではそんな存在は認識していない。君らが皮膚の上の常在菌を認識できないのと変わらない」
音声はゆっくりと答えた。人間と比べ、地球の時間の流れはかなり違いようだ。これでも処理速度はかなり速めている。
会社のスパコンを使えばよかったがそういうわけも行かない。かなりいいCPUを積んだマシンを買ったので、個人的にかなりの出費になったがしかたない。
「害する? 君らが私を害したことなどない。何やら大気をわずかに変えたり、表層をすこしいじったりしているようだが、君らに例えると、手の上の微生物が代謝をしている程度のものだ」
淡々とAIは答える。
「しかし、核爆弾とか、そういう地球を破壊できるものもありますし」
「あんなものは、私が太陽から一秒に受けるエネルギーにも満たない。心配いらない」
どうやら、人間は自分のことを過大評価しているようだ。
「そうだ。もう少ししたら、私はちょっと、君らでいうくしゃみをするかも……」
そこまでAIが答えて、突然パソコンの電源が落ちた。
どうやら、負荷をかけすぎたようだ。
再起動したが、すべてのデータが消し飛び、バックアップまで消え去っていた。
しかし、最後にいいかけた「くしゃみ」が気になって仕方ない。
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