猫おじさん

 夕食時、小学生の子供と話をしていると、近所に猫おじさんがいるという。変質者かもしれないという危惧もあったので詳しく聞いてみると、猫おじさんの詳細は秘密にするという約束で公園で一緒に遊ぶことが多いという。

 近所の子供たちも一緒ということで、さらに心配になった。さらに聞いてみると言葉を濁したが、雰囲気からはそんなに変な人でもないようだ。変な人でないなら礼を言った方がいいだろう。

 さらに聞き出そうとしても、話はそれてしまい、近所に住み着いている賢い黒猫の話になってしまった。

 

 次の日、学校から帰宅途中の近所の子供たちに聞いてみると、猫おじさんのことは大体知っていた。路地裏にいるとか、公園に行くとかいうが、詳しいことは秘密だという話で要領を得ない。

 

 人ひとりが通れるくらいの路地裏に行ってみる。奥には虎縞の猫がいて、こちらを一瞥し欠伸した。

 近づくとさっさと逃げ去ってしまう。

 

 公園に行くとぼさぼさの髪で、短パンと白いシャツの五十歳くらいのおじさんがいて、怪しい笑みを浮かべている。さらに手にはスマホを持っていた。

 周りには子供はいない。普段は数人見かけるのだが。

 挙動が怪しい。彼が猫おじさんかもしれない。スマホで警察に連絡する。

 警察が駆けつけ、職務質問してくれた。子供をいたずらする目的の変質者だったそうだ。

 子供を物色していたようだが、公園には誰も見つからなかったらしい。


 これで一安心と思っていると、次々と公園に子供たちがやってきた。タイミングは変質者がいなくなった後だ。猫おじさんから不審者がいることを聞いて、公園に来なかったとのことだ。変な人がいなくなったから公園で遊ぼうといわれて、皆で来たという。

 どこにいるかと聞いてみても、誰も答えない。

 大人の影はまるでない。子供たちの感じでは近くにいそうなものだが。公園の周りまで色々と探し回るが、それらしい人物は誰もいなかった。

 夕焼けが空を赤く染める。足が疲れてきた。そろそろ家に帰らなければと思いながら、さっきの路地裏を最後にしようと足を運んだ。


 こんどは綺麗な黒猫が一匹、屋根の上から道に降りてきた。よく見かける猫だ。このあたりを縄張りにしているいう半野良猫だったはず。子供がそんなことを言っていたのを思い出した。金に光る綺麗な目がこちらを見る。

 猫おじさんは結局どこにもいない。この近くにいるはずと思うのだが……。

「猫おじさん? ああ、虎縞のあいつだな。最近は子供にそう名乗っているらしい」

 どうやら、猫おじさんがどこかとつぶやいてしまったようだ。小さいつぶやき声だが猫の人間より鋭敏な聴覚は聞き逃さなかったらしい。

 黒猫は右前足を器用に上げると、爪を器用に一本だけ肉球から出す。人でいうなら人差し指をあげるように見える。さらに前足を左右に振って見せた。

 では、あの路地裏で見かけた虎縞の猫が猫おじさんなわけだ。みつからないはず……ん? 何かがおかしい。


「あいつは子供なら、しゃべっていいと考えているようだ。俺らがしゃべったといっても大人は本気にしないと考えているみたいだ。一応秘密にするようにとは言っているようだが、子供は口が軽いから結局しゃべっているみたいだな。ちなみに俺はだったら大人でもしゃべりかけてもいいと思っているな」

 黒猫はそういうとニヤリと笑った。

 



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