身代わり人形
子供のころの話だ。実家には古い薄汚れたフランス人形があった。白い服で金髪の人形は、普段は倉庫の中で眠っていたが、兄とかくれんぼをした時などは、ほこりまみれの倉庫に入り、人形を見ることもあった。兄とかくれんぼで遊んでいたある日、倉庫に入って隠れたときに人形の腕が折れているのを見た。セルロイドの右腕は直角にへしおれ、痛々しくぶら下がっていた。
かくれんぼの途中で自分を見つけようとした兄が階段から落ち、右腕をへし折ってしまった。幸い命に別状はなかったが、奇妙な符丁を感じ、倉庫に潜り人形を見てみると、腕はへし折れる前に戻っていた。
倉庫に荷物を取りに行く際、なんとなく人形を見ると今度は左足が折れていた。腕が治りかけていた兄は、買い物途中で車にはねられて左足を折ってしまった。
確認するとやはり、人形の足は治っていた。兄を身代わりにしているのかもしれない。
数か月入院していた兄が退院し、帰ってきたが、ついささいなことで自分と大喧嘩してしまった。兄に顔をあわせたくないので一人倉庫に入り、兄に災難でもないかと思いながら人形を確認する。人形の首はへし折れていた。言いしれない恐怖はあったが、喧嘩の直後ということで兄には腹立ちもあり、そのままにしておいた。
その日のうちに兄は、首をくくり自殺してしまった。自分との喧嘩で気を病んだのかもしれないと思ったが、残された遺書には腹立ちまぎれに倉庫の人形を何度も壊したことを後悔しているとつづられていた。どうやら苛立ちを人形にぶつけていたようだ。父も母もそんな人形は見たこともないといい当惑していた。自分は兄を見捨ててしまったことで後悔の念にかられ、自責の念にも襲われた。
今は、実家をでて遠くで暮らしているが、アパートの押し入れには例の人形が持ってきたはずもないのに存在している。
もちろん、人形は丁寧に扱い、決して怪我をさせたりはしない。
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